いちご日記

  • 2023年04月03日

ふたたびの「きらぴ香」

 
皆様、お元気でおられたでしょうか。
今年は春が早い。本当に暖かくなりました。例年、啓蟄の頃は「暦の上では春」という表現でしたが、今年はもう初春って感じでした。
すでに桜の開花も始まっています。桜吹雪の中でビール!最高です。
コロナも2類から5類に移行しますが、私は今までNGだったことがOKになる部分を全てを把握していません。というよりも、自分自身で行う感染対策はそう大きく変わることはないんじゃないか。と考えています。巷ではマスクを外した顔を同僚や同級生に見せることが恥ずかしいと考えている若者も多いようです。入社や入学から現在までずっとマスクをする生活が当たり前だったんです。そんな時代もあったよね。と言えるようになるのでしょうね。

 
さて、再開3回目は清水区のS様の圃場からお送りいたします。2月初旬、午後一番でお約束させていただきました。
いつものように社有車にてS様宅に向かいます。いつもの場所に駐車して、自宅に向かって歩いていくとちょうどS様が玄関から出てきたところ。
「元気だったかい。」とS様。「おかげさまでなんとか。」と私。アポイントを取って訪問しているけど、会うタイミングがいつも絶妙なんだよな、S様とは。

「きらぴ香」
これはホールパック 9個と15個

こちらはレギュラーパック
でかい。うまい。

早速、2人で圃場に向かいます。

私「収穫は何時から?」
S様「夜冷が11月25日。普通育苗が12月5日からだよ。」
ビックリした。全然遅れていない。2020年2月11日掲載「きらぴ香登場」では収穫が遅れていた。でも今回は他の品種と同じ程度まで収穫時期が早くなっている。11月までは暖かくて収穫が遅れ気味の生産者様が一杯いるのに。S様すでに「きらぴ香」の栽培についての問題点は解決された模様。
今回の取材中にS様からは「収穫遅れ」のワードは一切出なかった。それよりも「きらぴ香」は素晴らしい品種だという言葉を何度も聞いた。
確かに「きらぴ香」登場編でもこの品種が「ダメだ。」とか「遅い。」という品種に対しての不満は漏らしていなかった。難しいと思ったら、難しくなくしてしまえばいい。品種が悪いのではなく、栽培方法を習得していない作り手に問題がないかと考える。なんちゅうポジティブシンキング。

生産者様の探求心とか努力とかいつも驚かされてばかりいるけど、今回も参りました。70歳を超えているのにまだ研究する。しかもそれをさらっと言ってしまうとは。
確かにいちごは新品種が出てきた場合、今まで栽培してきた品種を継続して栽培することが難しくなったりします。
実際、JAへの出荷のような共撰の場合は品種転換を選択せざるを得ない状況は発生します。その場合、栽培方法が変わる場合もありうる。
育苗から収穫までの一連の流れが大きく変わることはないけれど、作業のタイミングが変わる。肥料が変わる。など細かな変更は必ずついて回る事は事実。
そして全ての作業に教科書があって、解答が存在する訳ではない。自分自身で解答を見つけなけらばならない。解答が出せないと結果、収量は伸びない。=収入が増えない。になってしまう。答えを早く出すことができれば収入は上向きになっていく。
いかに早く問題点を解決するのか。これはいちご栽培に限ったことではありません。我々サラリーマンも同じです。
問題解決のため、基本に戻ることも必要だし、勉強もする。そして自身の経験から対応策を見つける。サラリーマンのような集団であれば、教えてくれる人が居るかもしれない。しかし、生産者様はそうでない。もし、同じような問題を抱えた生産者様と会ったならば情報の交換はできるだろう。だけど、栽培の条件、それは日照だったり温度だったりが違うので参考にしかならない。つまりは自分で答えを出すしかないのです。
しかも、その解答がその年のベストであっても翌年には更にその上を行く答えを出そうとしていく。同じことを以前にも書いていますが現状には満足しない。
そんな生産者様たちの答えが積み重なって「あの品種はいいですね。」という評価になっていくのではないでしょうか。
もちろん、新品種の開発に携わった方々の努力と成果があってこその話ではありますが、作物が生産者様を成長させ、生産者様がその作物を一流品に育てていると私は思っています。生意気なことを言っていると自覚していますが本当にそう考えています。

”天敵” = ”生物農薬”

写真は、チリカブリダニとミヤコカブリダニの容器です。

S様からはこちらの会社の名前は頻繁に聞く。

S様も天敵を利用されています。
それも2種類の天敵使っていました。
天敵の違いについてはこちらを参照ください。

今更ながらですが、天敵利用の優位性は薬品防除の回数を少なくすることです。防除用の化学農薬については使用時期や使用回数が定められています。もちろん、使用方法を守っていれば化学農薬を使用することは何も問題はないです。
ただし、ダニやコナジラミなどは目視にて確認できた場合は繁殖が進んでいると考えて間違いないと思います。その点、天敵を放飼していれば肉眼での確認前に捕食してくれます。結果、害虫の発生が抑制されることで化学農薬の使用回数が減少するのです。
農薬の使用回数が少ないということはイメージが良い。それに、防除は体力的にも重労働です。重労働は少ないに越したことはないでしょ。
また、同じ化学農薬を複数回使用すると害虫側に耐性ができる場合があります。そのような薬剤抵抗性のある害虫も高い捕食力で防除します。

天敵利用には難しい面もあります。餌となる害虫がいなければ天敵は餓死する場合もあります。そして害虫が繁殖するスピードが天敵が捕食するスピードよりも早い場合には、害虫の発生を抑えることができません。よって、化学農薬を併用することになります。
化学農薬には有用昆虫(天敵の他、ミツバチ等)に対して影響がある成分を含んでいる場合があります。化学農薬=殺虫剤ですから有用昆虫が死んでしまうこともあります。つまりは、化学農薬の選択の幅が狭くなることもあると言うことです。

「一昨日、初めて防除しただよ。」さらっと言うS様。9月の定植で1回目の防除が1月末とは。私などは害虫と病気にビビッて結構な頻度で防除するけど、やっぱり違うわ。使用回数制限にビビりまくりで気門封鎖型の薬品を使うのにそれでも虫出しちゃって慌てて化学農薬散布したりなんかしてるけどね。おっと、ど素人とプロを比較するなんておこがましいわね。スミマセン。

電照もついています。これは日中延長用です。今はLEDになりましたね。以前は白熱電球でした。イニシャルコストは5~6倍(一部ネットでは10倍とも)にになりますが、ランニングコスト=電気代は1/3になったそうです。
ただし、実際には電気代は上昇しているのでもし、以前の電気代ならばランニングコストは更に掛からなくなっていたハズです。

ランニングコストを抑えたい。それは農業従事者であっても他の業種に従事していても同じことです。特に昨今は電気、燃料は高騰しているのですから頭の痛いところです。どこで妥協するのか。たとえば、4段サーモの最低温度設定を2℃上げる。コストは下がる。けど、収量や等階級が下がってしまえば結果減収となってしまう。ここのところは製品単価=出荷単価とも関係してきますが本当に難しい判断を迫られます。
シーズンが終了すれば出荷額合計も経費の合計も分かりますが、シーズン中には分かりづらい。燃料、安くならないかなぁ。ガソリンも。と私だって思うこの頃。世知辛いわ。

S様はすでに次作の親株を用意されています。

私は次作の親株を見るとホッとします。なぜならば来季もいちご作りを継続していただけることが分かるから。
今の私は残念ながら出会いと別れでは別れの回数が上回っているような感じがする。親株を見るとまだここに寄ることができるのだと安堵する。
まだ、この圃場のことを皆様に伝えることが出来るんだと素直に嬉しく思うのです。

そうなのです、すでに次作の準備は始まっているのです。
一般的なサラリーマンの平均労働時間は年間1,730時間程度という統計が出ています。無残業で週休2日プラス有給休暇を10日程度取得したと考えるとだいたいこの程度の時間になりそうですね。
さて、いちご農家の場合はどうでしょうか。一般的な専業農家の労働時間は年間およそ2,600時間~2,800時間程度という調査もあります。
そして、いちご農家は2,000時間~2,900時間と大分幅があるデータがあります。これには雇用が大きく関わっているようです。
私の実感ではいちごのような出荷に対してパック詰め作業や調整作業(根切り等)が必要な作物ほど労働時間が長いと思っています。
パック詰めは素人には任せられない作業であり、雇用する場合も元いちご生産者の方などパック詰めの経験がある方にお願いするケースが多いでしょう。
いちご栽培の経験がない方を雇用する場合は与える作業に制限ができてしまうということです。
更に収穫時期にあるにも関わらず次作の親株管理から定植苗の準備と時期が重なる作業があるので労働時間は長くなります。
その合間に圃場見学や展示会、はたまた勉強会に出席することもあるのです。
最近では詰め作業を行ってくれるパッキングセンターを開設したJA様も増加していますが、もちろん有料です。ならば自分で詰め作業を行うことを継続する生産者様が存在してもなんら不思議ではないのです。

今回はS様、実は忙しい合間を縫って時間を私の為に作ってくれました。いつもなら2時間以上滞在することが多いのに本日は1時間くらい。
今から、詰め作業に入られるようです。これなら別の日にすれば良かった。集荷休みの日を選ぶべきだった。仕事の邪魔をしてしまった。
後悔しきり。

それでもS様、私の為にお土産も用意してくださっている。申し訳ない気持ちで一杯だ。でも、お土産のいちご、凄い楽しみ。

「またおいで。」いつもの笑顔で見送ってくれる。「はい、また来ます。」(今度はなるべく時間のある日を選んで来よう。)と思い後ろ髪を引かれる思いで車を出した。

帰社してお土産のいちごを部署の人たちと食べました。部署が変わってからは初めての事だった。みんな、大喜び。おいしい美味しいと言ってアッとゆう間にパックが空になっていく。そりゃ、そうだよ。私が会社で管理している「いちごらしきもの」とは次元の違うおいしさだもの。
本当にありがとうございます、S様。

さて、今回のおまけは「いちごの輸入」についてです。
とその前に国内のいちごの生産量・消費量を確認して行きましょう。

2021年産の全国いちご収穫量は164,800t
2020年のいちごの一人当たりの年間購入数量は765g
2020年の日本の人口は1億2622万人
単純計算すると 765g×126,220,000÷1,000÷1,000=96,558tが店頭で販売され消費されているということ。
残りの約68,242tはケーキに乗っかったりパフェになったりという業務用になっていると考えられる。
でも待てよ、今は夏場でもいちごのショートケーキが販売されているし、チョコレート等のお菓子にもいちごは使われていますよね。
いちごは1パック=280gが主流になっているけど、店頭に並んだ場合は1パック=500円程度はしますよね。キロ単価1,700円以上する原料で市販のいちごチョコレート作れるの?という単純な疑問が浮かび上がります。
それで表題になるのです。
ここでも「栃木県ホームページ」の資料を引用させていただきます。それがズバリの答えなんです。

生鮮いちごの輸入量

生鮮いちごの輸入量の推移(貿易統計)
栃木県ホームページより引用

生鮮いちごの国別輸入割合(2016年)(貿易統計)
栃木県ホームページより引用

冷凍いちごの輸入量

冷凍いちごの輸入量の推移(貿易統計)
栃木県ホームページより引用

冷凍いちごの国別輸入割合(2016年)(貿易統計)
栃木県ホームページより引用

生鮮いちごは生食用に輸入され、冷凍いちごは加工用となります。生産量世界1位と2位の国からこのように輸入しています。また、生産量の問題だけでなく中国産は安価であることから輸入量が大きいことも付け加えておきましょう。

とは言っても生鮮いちごは約3,000tと微々たる数量です。輸入時期も考慮したら国産いちごの市場価格には影響はないと考えられます。
また、冷凍いちごは加工用なのでこれまた国内生産者に影響を与えることはないです。余談ですが国内品でも始めから加工用として市場に入るいちごの価格は安価です。国内生産者様は計画的に加工用のいちごを生産するということはなく、規格外れ(奇形果)や茎折れ果などイレギュラーが発生した場合のみが加工用として出荷されるのです。
もちろん、JAでは規格外の集荷は行ってはいませんから、国内の加工用いちごが一般消費者の皆様の目に触れることはほぼないでしょう。

しかし、栃木県、本当にスゲーよ。いちごの輸入で検索した中で一番分かりやすい資料だもん。頭が下がります。

ところで前回のモヤモヤなんだけど、まだ続いてるのさ。中国産かぁ。ってところがね。正直、残留農薬や噂の域からは出ていないけどホルモン剤使っているとかね。生食のいちごはいいのさ。国産しか食べないから。国内は農薬の基準や使用量、使用方法が厳格だから。皆さんも同じ考えだと思うのだけれど日本の野菜や果実は世界一安全だと思っているから。

最も、いちご以外の農産物でも中国から大量に輸入されている品目はあります。
どんな農産物なのかについては下記にて書かせていただきました。ご興味のおありの方は是非、一読ください。
【日本農業の現状と未来⑩】第4章:農産物の輸入 その2
【日本農業の現状と未来⑪】第4章:農産物の輸入 その3

私だけではないとは思うのですがどうしても中国産の農産物(加工品も含む)には抵抗があります。2000年以降で問題が発覚した中国産食品偽装のイメージが未だに消えないのです。今では取り上げれる頻度は少なくなりましたが、やっぱり問題はあるようです。中国産、避けちゃうんだよね。
日本企業が栽培管理にまで口を出していて、安全が担保できていればいいんだけど、一般には分からないもんね。

栃木県の資料の丸パクリになってしまいましたが、以上がいちごの輸入です。
輸出については掘り下げません。輸出しているけど、数量が少ないから。輸出しなくても全量を国内消費可能だから。だって、日本のいちごは世界一おいしいし、安全だから。つまりは国内の余剰品を輸出しているのではないし、輸出専用での栽培も(たぶん)行われていないから。
面倒くさいのか?違います。いちごの輸出量は約1,800tです。金額は約40億円。(財務省「貿易統計」より)
いちごの輸出について考察する時期は今じゃない。いちごが農産物の主要な輸出品目として認知される時。牛肉の輸出金額が約530億円であるから、その金額に引けを取らない金額まで輸出が増加した時に書きましょう。果たしてそんな時代が訪れるのか。その時まで「いちご日記」を書いているのかは一旦横に置いといて、もし輸出500億が達成できたとしたら、いちごの生産も流通も今とは違うカタチになっているでしょう。
そのカタチを書くことができるのであれば、恐悦至極でございます。

おまけなのにボリューム多めですみません。最後の文章、また気合が入っちゃった。

もう春です。花粉症でお悩みの方々にはキツいシーズンですね。でも、暖かくなってくると気分もなんとなく晴れやかに感じるのは私だけでしょうか?
皆様方におかれましても新しい職場で勤務される方、新しい仕事に取り組む方、様々な方がいらっしゃるのでしょう。中には新規就農される方も。
同じ職場、同じ仕事を継続される方のほうが本当は多いですよね。でもね、気持ちは一新して年度のスタートをきりましょう。
 
では、また次回。
新しいネタを仕込んでおきます。
お元気で。

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