いちご日記

  • 2023年02月23日

ふたたびの「紅かおり」

今日は前説なしです。先ずは写真を見て頂きます。

「紅かおり」のK様のハウスです。

もしかしたらお待たせしていたのかも。本日は2020年3月以来の登場、「紅かおり」です。
訪問した圃場は静岡市のK様改め「紅かおり」のK様のハウスです。

皆様、お元気でしたか?ご挨拶が遅れました。まだまだ、寒い日が続きますね。立春も過ぎて暦の上では春ですが季節はまだ冬。
先日、朝起きて顔を洗おうと思ったら、お湯が出ない。水は出る。水道から給湯器への配管が凍ってしまったのです。実に4年振りの出来事でした。
対策はしていたつもりだったのだけど甘かったかな。しかし、この冬は寒い。静岡市内であっても氷点下になる。もっと寒い地方の方から言わせれば、「何をその程度で騒ぐ。」なのでしょうね。スミマセン。

ずっと静岡市のK様でご紹介していたのですが、今回、写真を撮っている時に「違うな。」「紅かおりのK様だな。」と思った。と言うか、
K様=「紅かおり」と感じたのです。なので名称を変更させて頂きました。

取材の約束

取材前日、突然K様より着信アリ。「明日来れるか。写真撮り頃だ。明後日には収穫するから。」とのお言葉。
待ってました、この時を。
首を長くして「大丈夫です。」
「じゃあ、午後にでも来いよ。」
「1時頃でもいいっすか?」
「それじゃあ、1時に待ってるから。」
「お願いしまーす。」
K様との会話はハードボイルドだ。必要なことを簡潔にスピーディーに進めていく。決してそっけないとか不愛想ではない。この会話で重要なことは明日会えるのかだ。それ以上のことは明日、現場で話せばいい。

「いちご日記」の再開に当たって、やっぱり「紅かおり」を書きたいと思っていたのです。突然の訪問ほど迷惑なことはありませんから昨年2022年12月にご挨拶に伺って「いちご日記」再開を連絡していたのです。その時K様から「写真の撮り頃になったら連絡する。」と約束頂けたのでした。
この時も圃場へお邪魔させて頂いたのだけど、正直、例年と比較した場合、生育が遅れ気味かな?とは思っていたのでした。その時点でクリスマス、正月があるから、お呼びが掛かるのは1月中旬以降にはなるよな。とは予想していました。
(忙しい時に仕事の邪魔をする者は取材する資格無し!)

約束の時間より5分前にK様のご自宅に到着です。
門をくぐるとちょうどK様玄関から出てきたところ。タイミング良い。
取材に行って呼びにいくこともなくタイミング良くお会いできる時は良い写真が撮れて、お話の内容も濃いことが多いんです。
勝手な思い込みでしょうけれど、感覚というか波長が生産者様と合っている気がする。
今日も気合一杯の文章が書けそうだ。

「お世話になります。」と私。
「おぉ、悪いな。急に。」とK様。
「いえいえ、「紅かおり」の記事書けるのは私だけなんです。全然、(悪くない)です。」

そうなんです。「紅かおり」について文章にしているのは、私だけなんです。
それも育成者様ご本人のお話を聞けて、写真まで撮影できるのは。日本中で。いや、世界中で。こんな幸せどこにも無い。

衝撃的な景色

2人でハウスに向かいます。入口を開けた瞬間から強いいちごの香りがしてきます。

(何を見ているんだ、俺は。)言葉が見つからない。呆気に取られるとはこのこと。衝撃的な景色が目の前に広がる。

ホールパック9玉のサイズがゴロゴロしている。こんな光景初めて見た。前回の訪問の時(いちご日記2020年03月日より)よりも明らかに大粒、違うな、巨大粒が多い。
こりゃすでにいちごのサイズじゃないぞ。

「L(サイズ)はないな。スタートが85gからで最後が25gくらいか。」とK様。異次元の会話してるのか?
「俺はな、今年は失敗作なんだよ。仲間の中にはもっと獲れてる奴もいる。」
一体どこが失敗なんだよっ。とツッコミたくなる気持ちを抑えて話の続きを聞く。

「これ(写真の果実)は2番(果)だけどな、もう3番(果)の花が咲いてるんだよ。」
失敗作ということはやはり、収穫初めが遅れたのだな。12月訪問時には開花がほとんど見られなかったから。もっと獲れている生産者様がいるということはその方はK様より早く出荷していたのだろう。
しかし生育が遅れ気味であったのに2月初旬で3番が来ているだと。確かに花が咲いている。連続出蕾している。ほぼ追いついた。

更にK様の話は続く。
「去年の作でな、(1株で)3.4パック取った奴が居るんだよ。元々上手い奴でな、そん時は「紅ほっぺ」でも2.7パック取ったんだよ。」

一体何の話をしているのか?3.4パックだって?聞いたことない。「紅ほっぺ」だって2パックとれていれば上等、2.5パックで最高でしょう。

「目標はな、1株=1kgだよ。10aで8.5t。」
静岡経済連規格では1パック=280gです。以前の規格は1パック=300g
3パック強収穫できれば確かに1株で1kgにはなる。

栽培槽GFT-17は、10aで平均550個使用する。GFT-17に15本植えした場合、定植本数は8,250本。確かに8.5tになる。ただし、計算上ではだ。

読者の中には「何、ホラ吹いてんだ。」と思われた方もいらっしゃるでしょう。
農林水産省が公表している令和3年産いちごの10a当たりの収量は3.34tというデータがある。ただ3t台では少なすぎる感もあるにはあります。
令和3年産指定野菜(秋冬野菜等)の作付面積、収穫量及び出荷量:農林水産省ホームページより引用

過去に露地栽培と高設栽培の収量比較をしたデータがありました。品種は「章姫」です。
露地栽培が定植本数7,700本で収量MAX4.75t 
1株あたり616g。高設栽培は定植本数9,600本 収量MAX6.49t
1株あたり623gでした。これはあるJA様から頂いたデータから私が算出した古ーい資料です。

しかし、8.5tとは・・・。株1kgとは・・・。
では実測してみましょう。写真をご覧ください。

では実測してみましょう。

寸法確認しました。縦横は、ほぼ同じ65mm以上でした。

硬式テニスボールの直径は、65.4mm~68.6mmです。

重量を測ってみました。68g。これが一番小さい。

77g。硬式テニスボールの重量は56.0~59.4g

72g

5個で336g 他のパックも全て300g以上でした。

切ってみた。

呆気に取られたまま写真を撮ってしまった。
比較対象物や物差しを並べて撮影すればもっとリアリティがあったかな。

K様から頂いた「紅かおり」の実測値です。
説明なんかいらないでしょう。写真が真実です。

ちなみに「きらぴ香」の静岡経済連規格の場合、平パックGの場合、パック重量は280g。
1粒は20g以上となっている。規格を示した印刷物では5玉から15玉になっています。

ところが、4粒で280gを超えてくるのです。てか、300g超え。買った方は得したよね。
この事実、10aで8.5t。可能な数字ですよね。

「紅かおり」は果実が肥大するだけではない。花数も多い。そしてK様の「紅かおり」の果茎の太さはストロー並み。それも、シェイクなんかを飲むための太い奴。
そういう果茎に果実がぶら下がっているのです。当然、適度には摘果はしています。けれど、摘果をきつくして無理やり大玉にしているのではない。元々が大玉の品種なのです。

「今年の定植でな、11本植えにした仲間も居るんだよ。」とK様。普通、GFT-17への定植本数は2条千鳥で7本+8本の15本になる。
株間を空けたいとしても13本までは聞いたことがあるが11本だと?「ふぅ。」と私。今日何度目の溜息なのか。
定植本数を従来の73%まで少なくするのか?それでも今まで以上の収穫量が確保できるんだ。株間を広げなければならない品種ではない。色んな考えが頭の中をグルグルする。いや、クラクラする。

食味については?

ここで食味についておさらいしてみましょう。

食べた瞬間はサクッとした「章姫」にも似た感じだが、次の瞬間、「ジュワジュワジュワ~。」と果汁が溢れ出す。
味はやっぱり桃を足したような感じ。初めて食べた時と同じ味。

これはいちご大福にはならないな。(しないけど。)
だって、サイズが鏡餅になっちゃうよ。ケーキに載せるのは勿体ない。そのままかぶりつくのが一番いいな。
しかし、デザートで出してもらうなら1粒で十分だな。小さなお子さんならば、半分に切って上げてもいいかな。
などとどうでも良いことまで考えてしまう。

増殖はどうしてるの?

ここでずっと気になっていたことを聞くことにしよう。教えてもらえなくてダメ元だもん。

「増殖はどうしてるの?」
我ながら図々しいと思いながらも聞く。
「差し芽だ。」
「ランナーが伸びてきたらちょん切って差すだけ。そこに1,000本ばかり有らあ。」

「収穫母株を用意する必要はないな。簡単だわ。」とK様さらっとおっしゃる。
「そ、それって書いちゃってもいいの。」と私。
「えーよ。」とK様。
「写真はマズイよね?」
「載せ(掲載)りゃあええ。」ホンマかいな。

こんな開けっぴろげで情報公開してもいいのか?「ええよ。宣伝してくりょう。」とK様は言う。
この写真の苗が親株になって次作の定植苗が作られていくのだ。

親株からの採苗本数は20本程度だという。K様はどちらかというと短期間で採苗されるのでもし長期での採苗ならば30倍程度までは引っ張れるのではないか。
そうであれば「章姫」と同程度ということだ。定植苗の確保が比較的安易な品種の模様。

品種登録

「まだ、品種登録ができてないだよ。」2020年3月訪問時に申請はしていることは聞いていた。そして、確認もできていた。
品種登録出願番号 第33644号 出願日 平成31年(2019年)2月19日
4年経過したけれど登録には至っていない。もしかしたら「種苗法改正」があって時間が掛かるようになってしまったのか?

品種は登録されるだろう。時期はまだ不明だけど。
それよりも私は「紅かおり」が良い品種だと思っている。
タンソ病にも強い。ランナーは旺盛に出る。玉が大きい。花も多い。つまりは作りやすい。香りは強い。味も私は好きだ。
けれどもK様は言う。
「だからと言って人には勧められない。作れ作れと急き立てて、もし失敗したらどうする?みんな、生活が掛かっているじゃないか。」と。
「やりたい人には協力はする。でも強制はできない。」と。

K様はどちらかと言えば豪快な感じの方だ。だけど、実際にはこんな繊細な面を持っていらっしゃる。私の周りには細やかな気遣いをされる生産者様が多い。それは人に対してだけでなく、いちごに対してもだ。
目を配って栽培されている。だから、いちごもその事に答えて大きく美味しくなるのだ。大雑把な性格では栽培も大雑把になってしまうだろう。
私もそういう気づかいを生産者様から頂いてこの「いちご日記」を書くことができている。
本当にありがたいことだ。

「俺はな、みんなが なるだけ手間を掛けずに(いちごを)作れるようになりゃいいだ。」
言えるかい、こんな言葉。
ずう~っとそう言っている。
そういえば、亡くなられた藤枝のK様も「みんなが同じように成績が良くなきゃ(収穫量が多いということ)、おもしろくねえだ。」と口癖のように言っていたっけなぁ…。

お二人には親交がありました。それも20年以上のお付き合いだったようです。12月にK様を訪問したときに藤枝のK様のことに触れました。
「(藤枝の)K君が死んじゃって、張り合いがなくなっちまった。」と寂しそうにおっしゃっていた。私もこぼれそうになる涙を我慢していた。

「生前に(藤枝の)K君から電話があってな「紅かおり」の苗が欲しいって。それで直ぐに取りに来たんだよ。これを増やすんだって。だけど、作前(定植前)に死んじゃって。」
私も藤枝のK様が作る「紅かおり」見たかったな。お互いの圃場で、ああでもない、こうでもない。と議論するお二人の姿、また見たかった。
お二人には私などが持っていない何かで繋がっていたのだろう。そしてお互いを認めていた。お二人が一緒の場面に私が同席することは
多くはなかったけれど、どちらかを訪問した際にはもうお一人のことはお話の中によく出てきたものだ。
そのことを羨ましく思っていた。そして、今も。

「頑張って宣伝してくりょう。」「ありがとうございます。ごちそうさまです。また寄ります。」「おぉ、またな。」
自宅へ戻られるK様の背中が少し小さく見えたのは気のせいなのか。そんなことを思いながら車に乗り込んだ。

世界のいちご生産

「いちご日記」も結構な期間書かせて頂いております。
内容が重複することもあり、今まで書いたことがないことも盛り込んでいこうと考えました。
そこで今回より「おまけ」を付けていこうと思っています。

今回のお題は「世界のいちご生産」についてです。さらっとですが書いていこうと思います。
皆さんはいちご生産世界1位の国はどこか知っておりますでしょうか?実は私、知らなかったのです。というか日本のいちご以外に興味が無かったと言ったほうが正確です。

アジアの国に日本のいちごが流出していることは「改正種苗法」についての考察(いちごを例として)(農業コラム2021年7月27日)にて書いています。

日本のいちごが流出するのだから日本のいちごが世界で一番おいしいに決まっている。と考えていましたので、他国のいちご生産に興味が湧かなかったのです。

FAO 国際連合食糧農業機関( Food and Agriculture Organization of the United Nations )
経済・社会・文化・教育・保健等分野において政府間協定によって設立された世界的専門機関のうち、国連総会の承認を受け国連経済社会理事会 (Economic and Social Council )と連携関係協定を結んだ国連専門機関のひとつ。
「FAO駐日連絡事務所ホームページ」より引用

世界1位は中国でした。人口も(インドに抜かれたともいいますが)世界1位だし、国土が広いから「妥当かな。」というのが感想です。しかし、日本の20倍もの生産量であるとは思わなかった。

中国のいちごは遼寧、河北、山東、江蘇、上海、浙江などの中国東部沿海地域を中心に栽培されているようです。生食用で栽培。もちろんハウス栽培です。日本の品種が流出していますから、栽培技術も流出しており、高設栽培もある模様。いちご狩りはツアーもあるみたいです。

2位は米国でした。生産量の90%がカリフォルニア州でフロリダ州が2番目ですが、10%にも満たないです。データではこ2州でほぼほぼ100%となります。
アメリカでの栽培は露天です。それでも、生食用がほとんど。随分昔ですが、1度だけアメリカ産いちごをかじったことがあります。
がりがりで飲み込むまでには至らなかった記憶があります。
現在は大分美味しくなったようです。時期は選びますが、コストコで購入できる場合もある模様。夏になったら買いにいこうかな。

3位メキシコ 近年大幅に生産量が伸びているようです。ちなみにアメリカのいちごの輸出先1位はメキシコです。よって国内生産量も増加傾向なのだと推測できます。基本的に暑い国ですのでいちごは高地栽培です。

以下はグラフを参照ください。

さて日本は?7位でした。生産量16万t。韓国より(ちょっとだけだけど)少ないことが残念な感じ。輸出量が1,370t(大阪税関ホームページより引用)で生産量の1%にも満たない=全量国内消費であるならば、このくらいの数字かな。生産者人口も作付面積も減少傾向ですから仕方ないのかなという感じです。

しかし、栃木県スゲーな。こんなデータを県のHPに載せているとは。いちご生産量日本一は伊達じゃないぜ。御見それ致しました。

いちごの原産地

いちごはバラ科の植物です。また、厳密には果物ではないとも言われています。果物の定義として、木になるもの。と言うことがあります。
また、野菜の定義に木ではなく草である。があり、いちごやスイカ・メロンがこれに当たります。果物的野菜という分類の方法もあります。
まぁ、どっちでもおいしければいいのかな?

野生のいちごは石器時代頃から食べられていて、遺跡から種が出土しています。
現在のカタチは約200年前の18世紀にオランダで、南アメリカ原産のチリ種と、北アメリカ原産のバージニア種がかけ合わされて誕生しました。
つまりは交配種です。英語ではストロベリーと呼ぶのですが厳密には「strawberry」は、オランダイチゴであると解説されています。また学名では「Fragaria(フラガリア)オランダイチゴ属」となっています。
先に書いた「紅かおり」の品種登録出願では「出願品種の属する農林水産植物の種類」の項は「Fragaria L」となっていました。

本当にさらっと世界のいちご生産について書いてみました。
だけど、なんかモヤモヤするのね。世界1位と2位がね。日本関係してるよね。
というところで今回はこれにておしまい。続きは次回のおまけで書いていきたいと思います。

季節はまだ冬真っ盛りです。寒い日が続きます。コロナも第5類になるようですが、だからと言って感染力がメチャ弱くなってくれる訳でもありません。
これからは自己防衛が主流です。明るい話題が多いとは言えない昨今ですが皆様お健やかにお過ごしください。
では次回またお会いしましょう。バイバイ。

いちご日記の著者:M
農業関連資材の元営業マン(現在は社内いちご農園の管理人)
2023年還暦を迎える年男
文章のお手本はハードボイルドの化身 北方謙三 先生
最近の事件…ミツバチに初めてさされたこと

当ウェブサイトでは、お客様の利便性の向上およびサイト改善のためにクッキーを利用しています。
クッキーの利用にご同意いただける場合は、「同意する」ボタンを押してください。
詳細につきましては、クッキーポリシーをご確認ください。

同意する