いちご日記

  • 2020年08月06日

育苗編 育苗圃場より(2020年6・7月)

こんにちは。久しぶりの「いちご日記」です。ご無沙汰しております。
「4月に最終回じゃなかったっけ?」という突っ込みが来そうですが、1回完結したTVドラマでも番外編を放送するじゃないですか。
まあ、そんな感じでお読みください。
 
実は4月終了後、昨年の育苗を取り上げた記事へのアクセスが増えたんですよ。
それで、去年 伝えていなかったことなどを今年書いてみようと思った訳です。

さて、どなたの圃場を見学しましょうか。

訪問した時期は6月中旬、この日は梅雨らしい天候でした。訪問させて頂いた生産者は藤枝市TS様です。お世話になります。
約束の時間の10分前に育苗圃場に着くとまだTS様、お見えでないご様子。
ちょっと中を見てみよう。と思ったのも束の間、車でご到着です。いつも時間に正確です。ありがたや。

「よく来てくれました。」とTS様。
いつものニコニコ顔です。嬉しいなあ。

「まだ、こんな状態です。」とTS様。
一緒にハウスに入ります。

”平面金網方式”と”高設採苗方式”

TS様は2種類の方法で育苗されています。”平面金網方式”は昨年もお伝えしましたよね。
もう1つの方法が”高設採苗方式”です。この方式の最大のメリットは育苗面積を少なくできることです。

平面金網方式

高設採苗方式

採苗数量が違う

平面金網方式はアイポット70穴パネルの架台を流用しています。平面金網方式ではランナーの誘導距離は約1,000mm程度です。対して、高設採苗方式では1,500mm以上の距離を確保できます。
しかも同じ5.4m間口のハウスであっても設置できる親株栽培槽の数は平面金網方式1:2高設採苗方式、よって定植できる親株の数も2倍となります。同じ増殖率であれば同じハウスであっても採苗数量は2倍以上確保できるのです。
ただし、条件が有ります。ランナーが旺盛に発生する品種でなければ意味がない。高設採苗方式の場合、日陰部分ができやすい。採苗した苗を仮植する場所が別途必要 等々です。
TS様は品種が「章姫」であること。高設採苗方式はハウスのつま1ヵ所の片側出しです。
この高設採苗方式は静岡県でも「章姫」が主力の時代には大きな需要がありました。「紅ほっぺ」に代わってからはランナー発生が少なくなったため、ほとんど需要はなくなりましたことを付け加えておきます。

6月中旬ですからポット受けは始まったばかりです。遅いのではないかと思われた方もいらっしゃるでしょう。古い資料ですが、静岡経済連が平成8年(1996年)に発行した「いちごの育苗技術」では「章姫」のポット受けは6月上旬となっています。「章姫」での育苗指針です。品種が変われば育苗時期は多少変化します。TS様は「章姫」なのですから基本通りなのです。
「なるだけ若苗を定植したいです。」こうおっしゃいます。確かに老化苗と若苗では本圃活着後の根張りが違います。多くの若い根を持つことで大きな果実、強い樹を作ることを心掛けています。ただ、マニュアルに沿っているのではありません。TS様自身も今までの中で痛い目に遭いながらも勉強して模索してこのスタイルにまで到達したのです。
「でも、完全なんかじゃ全然ないんですよ。」謙虚にそうおっしゃる。
もっともっと上も見ておられるから、まだ満足しない。「ずっと(満足しない)でしょうね。」とも言う。
素晴らしいと思います。こういう生産者様と一緒に仕事をさせて頂くことは本当に幸せです。

もう1軒、ご紹介します

TS様の圃場を訪問してから約2週間後。7月上旬です。
藤枝市のK様の圃場を訪問しました。今日は大雨です。

K様本圃の様子

TS様本圃の様子(マルチ前)

本圃ハウスに入っていくとK様、培地消毒の準備をされています。プランターに黒マルチを掛けています。
「おぉ、久しぶりだな。」

樹はクラウンの下からカットしてあります。根は残ったまま。潅水チューブは1本のみ通してあります。その上から黒マルチを掛けます。ハウス内は閉め切ってしまえば夏場の天気の良い日ならば60℃以上に温度は上がります。その中に培地を置いておけば太陽熱消毒となります。ただし、培土剥きだしの状態では培土は乾燥してしまい、せっかく盛った土は崩れて落ちてしまいますし、培土によっては撥水してしまいます。それを防ぐため潅水チューブで水を掛けかつ黒マルチで覆います。黒マルチならば培地温は更にあげることができます。
根を完全に除去しないと次作の定植時に問題があるのではないかとおっしゃる方もいらっしゃいますが、細い根であればこの状態で培土の中に溶けてしまいます。
 
「今年は ”章姫” もやるだ。」とK様。実はTS様にそのことは聞いていました。
「どんくらいやるだか、まだはっきりしてないけどな。」何か嬉しそう。私も嬉しい。「章姫」大好き。
 
仕事の手を休めて近況を聞きます。
あれ、どこかに電話してるぞ。伺った日はあいにくの大雨でした。雨がハウスのビニールを叩く音がちょっとやかましい。しばらくすると誰かが入ってきました。奥様かな。と思って扉に目をやると、おぉTS様登場です。
「先日はお世話になりました。」2人が3人になってさらにいちご談義継続です。
「地床(土耕栽培)のころはいちご(作り)は70(歳)までだって言ってたよ。今は高設で80(歳)までやれる。」とK様。
「60歳から高設(栽培)始めたよね。○○さんは。」とTS様。

そうか、この地区のいちご高設栽培研究会の方々にはK様より年配の方々が居たよな。
「あの衆も20年(いちご作りが)できたんだよ。」

いちご高設栽培は静岡では2000年頃から本格的な導入がはじまりました。私も販売主力商品のアイポット及びパネルが大分普及して高設栽培資材の販売にシフトしました。始めは売れなかった。焦ってもいた。正直な話、「こんな高齢の方々に勧めてよいのだろうか?売れりゃあそれでいいなんて悪徳業者じゃないのか?」と悩んでもいたのです。
TS様、「みんな喜んでいたんだよ。M(=私)さん。」ずっと心に引っかかっていたものが取れた気がしました。
「お前、高設だからいちご作りができた人も居たんだ。マニュアル化ができたから経験が乏しくてもいちごが作れた。土耕だったら新規就農者もなかったんだ。」とK様。
営業で伺っていた時も取材に来た今日も私のほうが励まされる。今、文章を書いていてもそのお話を思い出して目頭が熱くなる。素晴らしい仕事をさせて頂いている。

話は尽きないのですが、そろそろ お昼。お暇の時間です。その前に育苗圃場を見せてもらいましょう。

土詰め架台

土詰めされたアイポット

育苗ハウスには奥様がいらっしゃった。
「ご無沙汰してます。」そう、前回の訪問時にお会いできなかったんだよな。今日は会えた。嬉しい。
「今日は雨だから苗のほうはさわらないよ。」と奥様。ポット受けのために土詰めをされていた。
アイポットへの土詰めの様子は2019年7月掲載「いちごのプロ【その2】」に詳しく書かせてもらっています。
S様のところにも行かなきゃ。

奥様「久しぶりの高設採苗で、これでいいだか。」とTS様に聞いています。「章姫」を栽培するのでK様も高設採苗を今年は導入されています。何年ぶりになるのでしょう。
1997年頃の「章姫」の採苗には使用していたハズです。

「章姫」と「紅ほっぺ」

高設採苗「章姫」

高設採苗「紅ほっぺ」

「章姫」と「紅ほっぺ」です。「紅ほっぺ」だけポット受けしています。ランナーの発生が「章姫」ほど旺盛ではない「紅ほっぺ」は出てきたランナーは即順番通りにポット受けを開始しなければ必要数量を確保できません。対して「章姫」はまだポット受けしていません。たくさんランナーが発生するので若苗確保のためもう少し遅めに受け始めます。
TS様「2回戦、たまには3回戦でもポット受けできるから助かるだよ。」2回戦とは1回目の受けポット終了からランナーを全て除去します。再度、ランナーを発生させて2回目の受けポットを行うことです。3回戦はその後、もう一度行うことを指します。ランナー発生が旺盛な「章姫」だからこそ可能な技です。パネルでの仮植中に病気が発生した場合、新しい苗と取り換えることができます。この時に活躍するのがスーパーアイポットであることは2019年10月掲載「スーパーアイポットでの育苗」で書いています。
静岡市のK様のところも行かなきゃ。「紅かおり」どうなってるのかな?

平面金網「紅ほっぺ」全景

平面金網「紅ほっぺ」

同じハウスの中で平面金網方式で「紅ほっぺ」のポット受けも始まっていました。「章姫」と比べればランナーの色が違うことは一目瞭然です。「紅ほっぺ」のほうがランナーが赤いです。「章姫」でこんなに赤いランナーだと、痩せ過ぎ(肥料が少ない)と思われます。品種によって施肥管理は育苗時から微妙に違うのです。

また、高設採苗エリアは採苗完了後にはその架台は撤去され育苗パネルが設置されます。仮植床が別に必要なことは先に書きました。

育苗時から苗の生育ステージを併せることは重要ですと何度も書いています。親株にも「固形肥料+水」での管理よりも、もし養液コントローラーの系統に余裕があってかつ育苗圃場にも配管できるのでしたら、そちらで管理されることをお勧めします。
まず、親株の生育が揃います。それはまるでコピーされた樹が並んでいるかのように。そしてランナーの発生も揃います。管理は容易になります。

養液コントローラーは価格が本当にピンからキリまであります。ご自分の圃場に合わせて決してオーバースペックになる必要はありません。私は2液混合でプログラムを週単位程度で入力できるタイプが使いやすいだろうと思っています。「系統=能力」については圃場との兼合いでしょう。圃場拡大を計画されているのであれば、「標準×2」程度のバージョンアップ可能なコントローラーを始めから導入された方がいいのではないかと考えています。
価格は高くなるけれども部会で同じコントローラーを皆で使用すれば、データを収集することは簡単ですし、同じ機械を使用していればデータの共用もできる。
機械操作も共用。何時、どの程度の EC 等のデータを入力するかが全て共用することが可能となります。
ベテランの生産者様のテクニックを新規就農された方も理解して、言い方に語弊があるかもしれませんが、真似ることができます。
先に書いた「高設栽培だからいちご作りができた。」とはこのことを言っているのです。
もちろん培地や養液そのものも同じ製品を使用する前提となりますし、親株や原水は共用ではないことは理解して使用しなくてはなりません。

K様、奥様、TS様、本当にありがとうございます。
大雨で作業をお休みされていてもおかしくないのに私の訪問に合わせて圃場で待っていてくれました。TS様は車でわざわざこちらまで出掛けて来てくれました。何とお礼を申し上げたらよいのか。恐縮してしまいます。

育苗編は1回で終了予定でしたが、ちょっと書ききれないので、もう1回書かせて頂きます。
昨年掲載時にはさほどアクセスの無かった「アイポットを使った夜冷育苗(正式名:夜冷短日処理育苗)」が春先から大分読まれるようになっています。
なので、もう1回、夜冷とパネル上げを取り上げて書いて行きます。

次回、お楽しみに。皆様、これからも暑い日々が続きます。
体調を崩されないようご慈愛ください。お元気で。

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