農業コラム

  • 日本農業
  • 2021年06月23日

【日本農業の現状と未来⑭】第5章:日本農業を取巻く環境

第14回 日米貿易協定・TPPの影響

皆様、こんにちは。
5月中旬までに沖縄から東海地方まで梅雨入りしたのに関東甲信は6月14日からが梅雨入りです。北陸・東北はまだ梅雨入りしていません。(6月14日現在)
東海地方も梅雨本番という感じもせず、果たしてカラ梅雨なのかそれとも梅雨明け直前に大雨になるのでしょうか。
昨年は7月に集中豪雨があり熊本県などで大きな被害が発生したことは記憶に新しいことですね。
今年はそんなことが起こらないことを願うばかりです。

さて、本日より政治的な内容になります。文字ばっかりでイヤーな回の始まりです。ゴメンナサイ。

はじめに

TPPと言う言葉を聞いたことがない読者の方はいらっしゃらないでしょう。
近年はあまり話題には上らなくなったのですが、約10年前には日本も参加するのかしないのかとよく話題になったものです。
アメリカの前トランプ政権でのTPP妥結交渉離脱は2017年1月でこちらも話題になりました。

農業資材の営業をしていると、TPP参加であるならば、国内農業強化のための動き、それはお金も含めて活発になるだろうと予想していました。実際にTPP参加を見据えての交付金事業もありました。

では実際問題としてTPPとは何なのでしょうか。そして日本にはどのような影響があるのでしょうか。本日から書き進めていきます

TPPとは

TPPの概要
環太平洋パートナーシップ協定 (英語:Trans-Pacific Partnership Agreement、略称: TPP)
2006年にシンガポール、ブルネイ、ニュージーランド、チリの4ヵ国で自由貿易協定が締結されました。これをP4(Pacific4もしくはTPSEP=Trans-Pacific Strategic Economic Partnership Agreement)と呼びます。ちなみに、この4国はAPEC(アジア太平洋協力会議)のメンバー国です。
TPPはこのP4を環太平洋地域に拡大して適用していこうとするものです。
貿易関税の撤廃、サービス・知的財産・金融や労働などの幅広い分野での自由化を目的とした協定です。

2010年 アメリカ・オーストラリア・ペルー・ベトナム・マレーシアが参加
2012年 カナダ・メキシコが参加
2013年 日本も様々な意見での論議がありましたが、当時の安倍内閣は交渉参加を表明
     これにて12ヵ国での交渉となりました。
2017年1月 アメリカにてドナルド・トランプ大統領が就任するや交渉離脱(先に述べた通りです)
      そして11ヵ国での交渉が継続となったのです。
2018年3月 11ヵ国での協定署名
2018年7月 日本国内での手続きが完了
      同10月 オーストラリアが締結、締結国が6ヵ国となったことから、同12月30日に発効となりました。

TPP11 (CPTPP) 参加国・・・
 日本 カナダ メキシコ ペルー チリ ニュージーランド オーストラリア ブルネイ シンガポール マレーシア ベトナム
規模は世界GDPの13%、域内人口5億人をカバーします。経済規模はASEANの約4倍と推定されます。
参考:フリー百科事典 ウィキペディア(URL: http://ja.wikipedia.org/)「環太平洋パートナーシップ協定」更新日付:2021/6/7

でもWTOがあるのです。本コラム第10回からの表にはWTO加盟国とEPA協定国が分かるようにしています。
よってまずはWTOの説明です。

WTOとは

WTOの概要
世界貿易機関 (英語:World Trade Organization)
自由貿易促進を主たる目的として創設された国際機関のことです。1995年1月に発足され、本部はスイス・ジュネーブにあります。
加盟国 世界 164ヵ国(2020年11月現在)
    加入申請中 25ヵ国(2020年末現在)

各国が自由に物やサービスなどの貿易ができるようにするためのルールを決める国際機関です。
貿易についての加盟国間の紛争解決制度が作られています。
意思決定はネガティブコンセンサス方式(採択したい案に対して全加盟国が異議を唱えない限り採択される方式)が採用されており、
その決定は加盟国を拘束します(=強制力があるということ)。

と、本当に大雑把で申し訳ないのですが、逆に詳しく書くと私自身も何がなんだか分からなくなってしまうのです。ゴメンナサイ。

GATT(ガット)の概要
関税及び貿易に関する一般協定 (英語:General Agreement on Tariffs and Trade)
自由貿易主義が基本原則で、関税引上げ操作等貿易制限の廃止のための国際協定です。
1929年から1930年代に世界恐慌が起こりました。それは世界的に起こった深刻な経済恐慌でした。
その時期に各国が保護主義的な貿易政策を設けたことは、第二次世界大戦勃発の一因となるのでした。
大戦終結後に保護貿易についての反省から1947年GATTが制定されるのです。

GATTの理念は「無差別」であること。
それは、最恵国待遇=すべての加盟国に同等の貿易条件を与えること
    内国民待遇=輸入品を国産品と同等に扱うこと
特定の国同士で協定を結び、その他の国を差別することの無いようにする協定です。日本は1955年に加入しました。

GATTは多角的貿易体制の基礎となり、貿易の自由化促進に繋がるのでした。それは日本を含む世界経済の成長に大きく貢献することとなるのです。

WTOとGATTの違い
WTOの決定は加盟国を拘束する。この部分が決定的な違いです。
GATTは加盟した国で適用される一般協定に過ぎません。強制的にルールを守らせることはできない、そして正式な国際機関ではなかったのです。

GATTからWTOへ
1986年から1994年まで行われたウルグアイ・ラウンド交渉において、自由貿易拡大を目指して新しい貿易ルールを作ることになるのでした。貿易ルールを運営するためには、より強固な基盤を持つ国際機関設立が必要となったのです。
そして1994年ウルグアイ・ラウンド交渉妥結時にWTO設立が合意されることとなりました。

加盟申請中の国を除く非加盟国はわずか13国しかありません。日本との貿易がある程度行われている国で非加盟国はありません。
また、貿易の自由化は上記にある通り世界平和にも通じているのです。
しかしながら、第12回でも触れたようにウルグアイ・ラウンドにおいては農産物輸出入の完全自由化には至らす、ミニマム・アクセス(MA=最低輸入機会)の決定しかできませんでした。
当然、各国の利害関係が絡むため、そう簡単に関税を世界規模で統一などできようはずもありません。

補足:ウルグアイ・ラウンドについて

ウルグアイ・ラウンド (Uruguay Round、1986年 – 1994年)
世界貿易上の障壁をなくし、貿易の自由化や多角的貿易を促進するために行われた通商交渉。
ウルグアイの保養地であるプンタ・デル・エステで1986年に開始宣言されたことからこの名がついた。

概要
この協議ではサービス貿易や知的所有権の扱い方、農産物の自由化などについて交渉が行われた。中でも農業分野交渉が難航し、
将来的に全ての農産物を関税化に移行させること最低輸入機会(ミニマム・アクセス)を決定するにとどまり、完全な自由化には
至らなかった。
この協議によってGATTを改組して世界貿易機関(WTO)を設立することが決定され、また貿易に関連する投資措置に関する協定(TRIM)、サービスの貿易に関する一般協定(GATS)、知的所有権の貿易関連の側面に関する協定(TRIPS協定)が成立した。
引用:フリー百科事典 ウィキペディア(URL: http://ja.wikipedia.org/)「ウルグアイ・ラウンド」更新日付:2021/1/15

話をTPPに戻しましょうか。
日本のTPP参加にはアメリカとともに世界の中で貿易優位に立つ目論見があったことは皆様のご存じの通り。アメリカの交渉離脱で計算が狂った部分があるにせよTOTALで考えた場合、日本の製造業においてはメリットが多いと当時の政権は考えたと思われています。
TPP11においては日本は中心的な役割を果たしていくでしょう。
その後、アメリカとは2020年1月1日に「日米貿易協定」を結ぶことになります。日本とアメリカの間のEPAということです。

第10回の表にもあったEPA。それは何でしょうか。

EPAとは

EPAとは
経済連携協定 (英語:Economic Partnership Agreement)
2つ以上の国又は地域の間で、FTAの要素(物品及びサービス貿易の自由化)に加え、貿易以外の分野、例えば知的財産の保護や投資の自由化、規制緩和、人の移動、政府調達、二国間協力等を含めて締結される包括的な協定です。

FTAとの違い
FTAとは
自由貿易協定 (英語: Free Trade Agreement)
2つ以上の国又は地域の間で、物品の関税やサービス貿易の障壁等を削減・撤廃することを目的とする協定です。
貿易についての決め事のみがFTAであるということです。

EPAとFTAは上図のような理解で良いと考えます。

ここまでのおさらい

WTOの枠組みでは満足のいく貿易体制のできない国々の中で、利害関係の一致した国々がEPAに参加する。環太平洋地域での11ヵ国が集まってTPP。と、相当乱暴な解釈ですが簡単にはこうなります。本当はアメリカも巻き込んで中国に対抗できる形にしたかったのが政治的な本音でしょう。

ではTPPで何を決めるのか。また、メリットは何でしょう。

TPPで決まること
TPPの簡単な解釈としては、締結した11ヵ国でのEPAであると理解して良いと考えられます。
ただ、今までのWTOやEPAで議論されてきた内容よりも多くの項目が含まれています。


項目の内容は右図の29項目となっています。
正直な話、全ての項目の内容までは把握できません。

TPP参加のメリット・デメリット(予想の範疇にて)
◎メリット
関税撤廃(もしくは軽減)で関税分のコストが下がる⇒販売価格が下がる⇒日本の輸出品の販売量が増加する。よって、日本国内での生産量増加。
また、コストダウンのための海外工場移転の必要がなくなる⇒雇用拡大が期待できる。
その他に、関税撤廃(もしくは軽減)で関税分のコストが下がる⇒輸入食品が安価となる。
つまり好景気到来!国民の生活が豊かになる。
◎デメリット
関税撤廃(もしくは軽減)で関税分のコストが下がる⇒輸入食品が安価となる⇒国内農業が打撃を受ける。(ここ大事)
国内農業が打撃を受ける⇒食料自給率が下がる可能性は否定できない。(ここも超大事)
医療の自由化が発生⇒医療格差発生の恐れがある。
雇用が拡大する⇒安い外国人労働者の流入で日本人労働者の雇用機会が失われる恐れがある。

不参加の場合のメリット・デメリットは上記の裏返しであろうことは予測できます。
参考:首相官邸ホームページ(https://www.kantei.go.jp/jp/headline/tpp2015.html)

やはり、デメリットはあるのです。それが農業であることも様々な紙媒体での記事やネットでの記事で数多く書かれています。

TPPには今現在米国は参加していないことは繰り返し書いてきました。
貿易においての米国対策は他の方法で行わなければならない状況になってしましました。
そこで「日米貿易協定」を結ぶこととなるのです。

「日米貿易協定」と「TPP」の違い

日米貿易協定
日本国とアメリカ合衆国との間の貿易協定 (英語:Trade Agreement between Japan and the United States of America)
日本と米国間で締結されたFTAのことです。2020年1月1日に発効されました。
日本とアメリカを含む12ヵ国はTPPにて、経済の自由化を目指し協定を結んでいました。しかし、2016年の米国大統領選挙で当選した前大統領ドナルド・トランプ氏が2017年1月にTPP離脱を表明。結果として日本と米国の貿易協定は先送りとなってしまったのです。
その後、米国はカナダ・メキシコとのFTA「USMCA」を結び、更には韓国との「米韓FTA」を締結するのです。
韓国は近年、自動車・家電分野にて日本の最大の競争国です。このままでは日本は対米貿易で韓国よりも不利な立場になってしまうのです。
日本は米国との貿易交渉を開始しました。2019年末国会で承認、翌年2020年1月1日に「日米貿易協定」が発効となりました。

日米貿易協定の主な合意内容(米国からの輸入)
米:米粒のほか、調製品を含め、全て除外(米国枠も設けない)=関税撤廃・削減は除外
小麦:TPPと同内容でマークアップ(政府が輸入する際に徴収している差益)を45%削減(現行の国家貿易制度、枠外税率(55円/kg)を維持)
   TPPと同内容の米国枠(2019年度12万トン→2024年度15万トン、主要3銘柄45%、その他の銘 柄50%のマークアップ削減)を設定
牛肉:TPPと同内容で9%まで関税削減し、セーフガード付きで長期の関税削減期間を確保
   セーフガード発動基準数量は、2020年度24.2万トン。以後、TPPの発動基準と同様に増加し、2033年度29.3万トン
豚肉:TPPと同内容で、従価税部分について関税を撤廃、従量税部分について関税を50円/kgまで削減
   差額関税制度と分岐点価格(524円/kg)を維持し、セーフガード付きで長期の関税削減期間を確保
醤油、長いも、切り花、柿など輸出関心の高い品目に関しては関税撤廃・削減を獲得
出典:農林水産省Webサイト(https://www.maff.go.jp/j/wpaper/w_maff/r1/r1_h/trend/part1/chap1/c1_2_00.html)

もう少し補足しましょうか。
輸入
牛肉は38.5%の関税を最終的には9%まで削減する。
豚肉は高価格品で2027年度に関税撤廃。
粉チーズ・ワイン 最終的に関税撤廃
米についてはMA米の数量に変化はないがSBSを国別に設定し、アメリカは5万実トンから7万実トンに拡大する。
(SBS方式:国家貿易の下で輸入業者と国内実需者との実質的な直接取引を可能とする売買方式)
輸出
自動車・自動車部品は関税撤廃できず。追加関税の要求はかろうじて回避。

アメリカ(=当時はトランプ政権)の圧勝でしょう。農産物輸入でこれだけ譲歩したにも関わらず、当時の安倍政権は自動車・自動車部品の関税撤廃を勝ち取れなかったのです。この事実は今後、日本の自動車産業に大きく影響を及ぼす可能性があると推測します。
自動車・自動車部品は対米輸出額の約30%であり、逆に追加関税を迫られ、外交が弱い政権というイメージができてしまいました。
うーん、どうも日本の政治(外交)が絡むと残念なことが多くなって感情的になってしまいますな。

TPPや日米貿易協定での合意から農業が受けるダメージは説明しなくとも理解できますよね。
畜産農家は今よりも厳しい環境を余儀なくされます。安価なアメリカ産およびオーストラリア産牛肉が入って来るのです。
米はなんだかんだ輸入が増えます。小麦も買っちゃいます。小麦は日本で栽培し、流通させることそのものがさらに難しくなると予想できます。
もちろん日本の農作物も輸出しやすいような仕組みも取り入れられますが、具体的には全く見えていないことが不安です。

TPP参加が決定する前から国内農業において「次世代施設園芸導入加速化支援事業」「強い農業づくり交付金事業」「産地パワーアップ事業」等の農業に対する補助事業がありました。
しかし、その規模はウルグアイ・ラウンドの時の農業への補助事業よりもスケールが小さいであろうと感じます。もちろん補助金のばら撒きは良いこととは言い切れないし、「東日本大震災」の復興事業もあり、対TPPに掛けるお金はそんなにはないとは考えますが、それでも少ないと感じます。
何よりも本当に農業従事者の方々への有効利用になっているのか疑問に思う機材導入に遭遇することもありました。
私が感じていることは、今の対策ではカロリーベース総合食料自給率を上げることにはならないのではないか、ということです。(あくまでも私見)
我々の関わった補助事業は野菜が中心で、野菜の生産量を増やしてもカロリーベース総合食料自給率は上がらないことはすでに書いてきています。

農業従事者は減少していることは間違いない。つまり、農業従事者は選挙時の票田とはならない。
ウルグアイ・ラウンド時の1994年の農業従事者数は約250万人、2019年は168万人。選挙だけを考えた場合、減少はどう映るのでしょうか。しかも農業関連の仕事をしている企業も縮小だったり廃業も増えていると肌で感じています。
私自身が製造業従事者ですので大きな声で言うことは憚られますが、貿易の自由化の名のもとに製造業を活性化するべきなのかもしれません。
製造業従事者数は全産業就業者の15.7%であり、その人数は1,054万人です。
事業の活性化の優先順位が先になるであろうことは頭では理解できています。しかし、一方で農業が取り残されているのではないかとも感じます。

さて第14回はこのくらいで終わりにしましょうか。TPPについて、何となくでも理解頂けたら幸いです。

おっと、ここでもう一つの経済連携を取り上げることを忘れていました。
RCEPです。TPPについて書いたのならばRCEPを無視することはできないでしょう。


次回はRCEPとはなにか。そして、農業の大きな動きである植物工場について取り上げて行きましょう。
農業も過去から流行というものがあります。植物工場は一時の流行なのでしょうか。それとも日本に根付く新しい農業なのでしょうか。

それでは皆様、また次回お会いしましょう。お元気で。