農業コラム

  • 日本農業
  • 2021年07月12日

【日本農業の現状と未来⑮】第5章:日本農業を取巻く環境 その2

第15回 RCEPとは?そして植物工場とは?

皆様、こんにちは。
なかなか梅雨が明けませんね。東海から西の地域は5月中旬に梅雨入りしたのですからすでに1ヶ月半以上続いているということ。最も前半は空梅雨であったのだから梅雨明けが平年並みでもおかしくはないのでしょうか。

ちょっと東海地方の過去のデータを見てみましょうか。
昨年は梅雨入り6月10日頃・明け8月1日頃。梅雨明けが遅かったですね。
2019年は梅雨入り6月7日頃・明け7月24日頃。2018年は梅雨入り6月5日頃・明け7月9日頃。データでは梅雨入りが早いと梅雨明けも早い感じです。

長雨・冷夏は農作物にとって良いことはないですよね。夏が待ち遠しい今日この頃です。

早いもので、このコラムを連載して今回で15回目となりました。書いている本人自身、こんな長期連載になるとは思いませんでした。
これもひとえに読んでくださる皆様のおかげです。感謝、感謝。

最終回まであと2回です。上手くまとめ上げることができるのか自分自身も不安な状態で今回はスタートです。

RCEPについて

このコラムを書いている間に、TPP同様に日本農業にも大きく関わってくるであろう広範囲的経済連携のRCEPに動きがありました。
今回、この経済連携について考察してみましょう。

RCEPの概要
地域的な包括的経済連携協定(英語: Regional Comprehensive Economic Partnership)
2020年11月15日 第4回RCEP首脳会議の席上にて署名された経済連携協定(EPA)
ただし、2021年7月現在 発効はまだされていない。
加盟国・・・
 ASEAN加盟 10カ国(ブルネイ カンボジア インドネシア ラオス マレーシア ミャンマー フィリピン
           シンガポール タイ ベトナム)
 そのFTAパートナー 5カ国(オーストラリア 中国 日本 ニュージーランド 韓国)
署名15カ国の人口やGDP、貿易輸出総額は世界全体の約30%を占めている。
 人口:22.7億人(2019年)
 GDP:25.8兆米ドル(2019年)
 貿易総額(輸出):5.5兆米ドル(2019年)
参考:経済産業省ウェブサイト(https://www.meti.go.jp/policy/trade_policy/epa/epa/rcep/index.html)

インドは2011年の交渉開始からFTAパートナー国としてRCEP交渉に参加していましたが、主に中国からの製造品、オーストラリア・ニュージーランドからの農産物・乳製品のダンピングを懸念し、最終時点の2019年11月に交渉から離脱しました。

私はインドは人口の80%がヒンドゥー教徒なので乳製品は食べないかと思っていました。牛は神聖なるものとしているからです。
しかし、それは誤った理解であることに今回、気付かされました。インドの牛乳の生産量・消費量はともに世界最大だったのです。
確かにヒンドゥー教徒は牛肉を食べることはありません。しかし、牛乳及び乳製品については宗教上での縛りは無いようです。
チャイはミルクティーだし、ギーも乳製品。タンドリーチキンはヨーグルトに漬け込みます。
貿易や農業と宗教が関連しているとは書いている本人もビックリです。(余談)

中国から入って来る製造品は、その単価から警戒をする国がインド以外にもあることは想像に難しいことではないでしょう。

RCEP 8つの大原則
1. 世界貿易機関(WTO)協定との整合性確保
2. 既存の ASEAN+1FTA からの大幅な改善
3. 貿易投資における透明性と円滑化の確保
4. 参加途上国への配慮
5. 参加国間の既存の二国間FTAの存続
6. 新規参加条項の導入
7. 参加途上国への技術支援・能力構築
8. モノ・サービス貿易、投資及び他の分野の交渉の並行実施
出典:みずほリサーチ&テクノロジーズ『動き出す「東アジア地域包括的 経済連携(RCEP)』より引用


RCEPの前文及び第一章 冒頭の規定及び一般的定義を要約すると上記になるようです。(難しい)

具体的な対象分野

・物品の貿易
・原産地規則
・税関手続及び貿易円滑化
・衛生植物検疫措置
・任意規格、強制規格及び適合性評価手続
・貿易上の救済
・サービスの貿易
・自然人の一時的な移動
・投資
・知的財産
・電子商取引
・競争
・中小企業
・経済協力及び技術協力
・政府調達
・紛争解決 等
出典:経済産業省ウェブサイト
   (https://www.meti.go.jp/policy/trade_policy/epa/epa/rcep/index.html)

日本を中心としたRCEPと各国の相関関係

書いている私自身も完全に理解しているのかと言われれば自信はあまりないのですが、要するに個々で結んでいるFTAを15カ国で共通に近い形で約束事を作っていきましょう。と言うことでしょうね。
一番大きな部分は中国と韓国が入っていることでしょう。
しかし、インドが離脱してしまったこともとても大きなことです。

日本のメリット
アメリカを除くTPPに参加していない日本最大の貿易相手国の中国と第3位の韓国が含まれること。
(2019年全輸出入金額:中国21.3%、韓国5.32%)
●日本からの輸出
工業製品(自動車部品・鐵鋼製品・家電など)については91.5%の品目について関税撤廃。
この部分は「日米貿易協定」とは大きく違うところです。
農林水産品では中国へのほたて貝、インドネシアへの牛肉、中国・韓国向けの日本酒・焼酎などの段階的関税撤廃。
●日本への輸入
米・麦・牛豚肉・乳製品・砂糖などの重要5項目での関税の削減・撤廃の対象から除外。
中国に対しては、鶏肉調製品や野菜等(たまねぎ、ねぎ、にんじん、しいたけ、冷凍さといも、冷凍ブロッコリー、うなぎ、調製品など)を関税削減・撤廃の対象としていません。

日本のデメリット
インドの離脱。その理由として中国へのけん制役としての期待、また、13億の人口という巨大なマーケットがなくなりました。
中国のアジア圏での主導権が大きくなる可能性が高くなります。
つまりは中国がどう動くのか?合意内容を遵守してくれるのか?が不透明であること。

2019年の統計からとうもろこしの中国からの輸入は17トンに過ぎない。(第13回 表13-6)
古い資料で申し訳ないのですが、2005年中国は全世界に864万トンのとうもろこしを輸出しています。
日本の自動車部品の関税を撤廃したのだから、バーターとして中国のとうもろこし輸入増加要請があるかもしれません。
政府はアメリカとの関係も良好に保ちたいのですから、難しい判断となるのかな、などと考えてしまいます。

また、中国は野菜生産にも力を入れています。2002年日本で起こった中国産輸入野菜における残留農薬問題による中国政府の規制強化・輸出企業の生産・流通システムの再編成によって、農業生産構造も大きく変化してきています。零細農業が基本であった中国は、企業直営大規模農場が次々と成立しているのです。
関税の引き下げで現在以上に中国野菜が生鮮であったり加工品であったりしながら日本への輸入量が増えることも想像できます。
日本の輸入野菜において中国産が最大量になっている品目については既に書いてきましたのでここでは触れません。
ただ、その品目がもしかしたらもっと増えるのかもしれません。

また、2020年12月2日に参院本会議にて可決、2021年4月1日に施行された「改正種苗法」はRCEPとは無関係と言えないのかもしれません。
「改正種苗法」については改めてHPに掲載したいと考えています。

今はまだ想像の範囲を超えることはないですが、RCEPが発効されれば日中貿易のみならず、日米そして米中貿易についてもなんらかの影響がでることは間違いないでしょう。

自由貿易にはメリット・デメリットの双方が存在するのです。そして日本農業へも少なからずそれは、良いことも悪いことも含めて影響を与えるのです。

植物工場とは

植物工場という言葉を聞くようになって暫く経ちます。
弊社の営業も植物工場運営会社とのお取引は普通のこととなっています。

では、植物工場とは何ぞや?となりますよね。
普通に植物を作る工場です。でも、野菜は農場で作りますよね。わざわざ工場と呼ぶには理由があるのかな。

植物工場とは、施設内で植物の生育環境(光、温度、湿度、二酸化炭素濃度、養分、水分等)を制御して栽培を行う施設園芸の内、環境及び生育のモニタリングを基礎として、高度な環境制御と生育予測を行うことにより、野菜等の植物の周年・計画生産が可能な栽培施設を言います。
植物工場は、
(1)閉鎖環境で太陽光を使わずに環境を制御して周年・計画生産を行う「完全人工光型」と、
(2)温室等の半閉鎖環境で太陽光の利用を基本として、雨天・曇天時の補光や夏季の高温抑制技術等により周年・計画生産を行う
 「太陽光利用型」との2つに大別されています。
出典:農林水産省Webサイト(https://www.maff.go.jp/j/heya/sodan/1308/01.html)

完全人工光型は閉鎖型とも呼ばれています。太陽光利用型は開放型と呼ぶこともあります。

●植物工場の形式による農産物の違い
「完全人工光型」・・・もやし レタスなどの葉物 きのこ類
「太陽光利用型」・・・トマト リーフレタス等 いちご

よく話題となるのは完全人工光でのレタスなどですが、一般流通量ではきのこ類、もやし、トマトのほうが断然多いです。スーパーなので手に取るきのこ類、もやし、スプラウトは普通に植物工場で生産されています。

植物工場の起源

1957年にスプラウトの一貫生産を行ったデンマークのクリステンセン農場が植物工場の起源だと言われている。
北欧では季節によって日照時間が非常に短くなるため、補光型の植物生産が以前から行われており、これを基礎として、オランダ等の欧州各地で高度な園芸技術が発展してきた歴史がある。
日本における植物工場の研究開発は、1974年(昭和49年)に日立製作所中央研究所(東京都国分寺市東恋ヶ窪で開始された。日立製作所ではその基礎付けを行うため、レタスの一種であるサラダ菜を実験資料に選び、工場生産に必要と思われる環境条件と成長の関係について定量的で精密な成長データを蓄積した。こうして工場生産の原理である大量生産と規格化が実証された。
引用:フリー百科事典 ウィキペディア(URL: http://ja.wikipedia.org/)「植物工場」更新日付:2021/6/15

オランダの農業事情

植物工場を語るにおいてオランダの農業事情を説明しないと、なぜ植物工場なのかが見えてきません。


オランダの国土面積は約4万1,000平方km。日本で言えば九州と同じくらいの広さの国土です。
農地面積は約184万haと、日本の半分以下しかありません。
冬の日照時間も少なく、農業に適した国土とは言い難い国ではあるのですが、アメリカに次いで世界第2位の農業輸出国でもあります。

「世界第2位の農業輸出国」を叶えたのは、ICT技術を駆使したスマート農業の存在です。自動制御システムを活用し、農作物への肥料や水の供給を自動制御しているのです。約8割の一般農家がICT技術を取り入れていると言われています。
またビニールハウス内で自動制御されれば、天候に左右されることなく、安定的に農作物を育てることができます。

オランダの農産品輸出額は861億ドル 世界シェアは6.2%(2015年, 出典:UNComtrade )です。ちなみに1位のアメリカは1,402億ドル 世界シェア10.2%です。
注)UNComtrade(United Nations Commodity Trade Statistics Database ):国連統計局(United Nations Statistics Division)が提供する輸出入統計のデータベース

出典:国連 資料: GLOBAL NOTE 
出典:European Commission
出典:政府統計の総合窓口(e-Stat)「農林水産物輸出入統計」
   (https://www.e-stat.go.jp/)

農業生産には不利な状況において世界第2位の農業輸出国となったことは素晴らしいと単純に考えます。
しかし、オランダも農業就業率は僅か1.15%であり日本よりもその割合は低いのです。

オランダがその地位を獲得するに至った要因としては
1. 大消費地(イギリス、フランス、ドイツ等)が近い。野菜は鮮度が重要であり、かつ陸送も可能な場所が近い。
  しかもその消費国は国民所得が高い=顧客が多い。
2. 光熱費が安い。北海油田からの安価な天然ガスが入手できる。天然ガスでの暖房の熱を使って発電も可能。
  更に売電も一般的に行われている。
と考えられます。日本とはかなり条件が違いますね。

日本での植物工場の問題点

日本は植物工場で農産物輸出を目論んでいるのではありません。昨今の異常気象での野菜不足解消・安定供給や食の安全、ブランド、ドクターベジタブルと呼ばれる低カリウムレタス生産などが目的です。


しかし、コストが掛かります。最大のコストは人件費と光熱費。それをカバー出来得る製品単価で販売できれば産業として成立するでしょうが、市場には露地栽培の野菜や輸入野菜など安価な野菜があるのです。とても価格での対抗はできません。
ブランドや製品のパフォーマンスを認めるユーザーには購入対象となりますが、果たして一般大衆が積極的に買うのか否かはこの場では結論を出せません。
第14回にて近年の農業の補助金事業をいくつか紹介しましたが、高騰する化石燃料からの脱却のための木質バイオマス等の活用が施設整備の条件になっている事業もあります。

誤解の無いように付け加えますが、上記のきのこ類、もやし、トマトなどはコストダウンと大量生産に成功した品目です。

更に現行の植物工場がいくら増えてもカロリーベース総合食料自給率は上がりません。
なぜなら、穀物を栽培できないから。
何度も言いますが、食料としての米以外の穀物、畜産向け濃厚飼料用穀物が国内調達できない限りカロリーベース総合食料自給率は上がることはないのです。

私は何も植物工場を否定しているのではありません。腎臓病患者には必要となる野菜が作れるのです。実は私も腎臓に持病あります。低カリウムレタスのお世話になる日が来るのかもしれません。
安定供給は消費者、生産者両者ともにメリットがあります。日本で植物工場がオランダと同じように成立すればそれは素晴らしいことであると思っています。


営業をしている時はもちろん、植物工場運営会社やこれから植物工場をやっていきたいという企業へ出向くことは普通にあったことは先に述べました。
植物工場用の備品を販売している会社から電話が掛かってくることも度々ありました。大体、一緒にやりましょう的なことをおっしゃるのですが、利益がでることが間違いないのであれば、「自社でやればいいのに。」と思います。コンサルタント的企業もあるけれど、「だったらご自身でおやりなさい。」と考えてしまうのです。

植物工場を運営されている企業を訪問すればどうして植物工場なのかは分かりますし、実際に運営されていれば今までの農業とは違うのですから、様々な問題に直面しています。それらを乗り越えて自らのスタンダードを作っていかれるのだな。と思えてきます。その知恵や努力には本当に頭の下がる思いです。

新しい形の農業、それが今後の日本農業が進むべき道の一つであることは間違いないと考えています。

次回は今回でも少し触れた「改正種苗法」についてお話しいたします。
連載の農業コラム【日本農業の現状と未来】はお休みです。

それでは皆様、お元気で。