いちご日記

  • 2023年01月30日

「いちご日記」再開です。

皆様、こんにちは。随分とご無沙汰してしまいました。お元気でおられましたか?
2020年11月2日の掲載以来になってしまいました。スミマセン。
残念ながら、この期間に人類がコロナ禍からの脱出ができなかったことは残念でなりません。コロナウイルスは変異を続け、オミクロン株からの変異種も出てきました。
2023年は新型コロナの新たな派生型「XBB.1.5」が主流になるのでしょうか。しかし、きっと人類はコロナに打ち勝つ日がやって来ることを私は信じています。2019年以前の日常が戻って来ると信じています。

いちごの世界でも動きがありました。
休載中に栃木県では新品種「とちあいか」の栽培も始まりました。いちご出荷額日本一のプライドを掛けた栃木県が新たな主力品種として世に送り出しました。
この日記では静岡県内のいちご生産者様を訪問して、その時々の模様を書かせて頂いておりますが、私も栃木県に行って圃場で「とちあいか」を見てみたいものです。

さて、本日から再開の「いちご日記」ですが定期での掲載ではないことをはじめにお知らせさせて頂きます。申し訳ありません。
言い訳がましいですが、お休みしていた理由を少し書かせてください。

休載していた理由 その1
私、体調を崩しまして長期でお休みを頂いておりました。本人はまだまだ若いと思っておりましたが、しかし考えてみればそんなに遠くない未来に定年を迎える身でありました。50年以上、オーバーホールもせずに動く機械なんか(まず)ありませんよね。人も日々のチェックやメンテナンスは重要ですね。皆様方におかれましても、ご自身のお体大切にしてくださいませ。

休載していた理由 その2
最後に書かせて頂きます。

それでは再開一発目、元気に参りましょう。
さて、久方振りに訪れた圃場は藤枝のTS様のハウスです。
訪問は12月初旬でした。本日は今シーズンで最も冷え込んだ朝になりました。
もっとも、休載中にも数回お邪魔してはいたのです。メールでも連絡を取り合っていたので、本人同士は全くの久しぶりではないのでした。

TS様の圃場へ

営業車でTS様の圃場へ向かいます。10:00が約束の時間です。
ご自宅から離れたほうのハウスへまず向かいます。売店が併設されているハウスです。あれ、車が止まっていないぞ。ということはご自宅近くのハウスにいるのかな?
TS様の本圃は2か所です。2020年2月掲載「5年ぶりの訪問」でお邪魔した圃場は売店が併設されているハウスでした。
もう1か所のハウスに到着。やっぱり、誰もいない。すごくいやーな予感。収穫が始まっているならば、この時間ならば必ずどちらかのハウスで仕事中のハズです。
あんまり、好きじゃなないのだけど携帯電話で連絡します。だって、仕事が忙しい時は煩わしいでしょ。ハウスだけで仕事している訳でもないし。
そんな考えは杞憂でした。「すぐ行きまーす。」とTS様。程なく、到着です。
「コラムの材料になるだか分んないよー。」と言いながらハウスの入口を開けてくれるTS様。続いて入室する自分。

今作が遅れ気味であることは分かっていました。それは、スーパーのチラシにいちごが載ってこないこと。会社で私が管理しているTS様から譲って頂いた株も着果していないことで遅れていることは認識していました。
ちなみに私が管理(栽培なんておこがましくて言えない。)するハウスへミツバチを放飼した日が11月30日、昨年作は11月16日でした。ミツバチを持ってきてくれる業者さんが、「今年は3週間程度遅れていますよ。」とも教えてくれました。
しかし、赤い果実が全然ないとは思わなかった。
「今までで一番遅いよー。」とTS様。「今年の気候じゃ、しょんない(しょうがない)じゃん。」と私。例年と比較して今年は確かに温かい。それは体感ではなく昨年の9-11月の気温と今年の9-11月気温をネットで調べて確認していたからです。気温が下がらなければ、花は咲かない。むしろ当然の結果であると言えるのです。

TS様の栽培面積は2か所合計で約28a。定植本数は約20,000本で品種は「章姫」のみ。定植日は9月中下旬です。夜冷育苗等はなし。全てアイポット育苗です。
花の状態から見て収穫開始は12月20日近辺ではなかろうかとおっしゃっている。
「遅いんだけどね、11月の下旬から12月上旬にかけては案外、値段(いちごの単価)がつかない(安価)ことがあるからね。」と心配はしていない様子。
確かに花が揃っている。「早い花は摘(と)るよ。Kさん(藤枝のK様)も「運動会のころの花は摘れ。」って言ってた。」
「実になっても奇形果が多いしね。」ともおっしゃる。

脱線するけど、私の管理しているハウスでも早い花は有った。昨年は摘んだが、今年はその花の半分程度を残してみました。結果、奇形果で小さくてとても人に勧められるシロモノにはならなかった。その後、全部摘果しました。今作の失敗の一つです。

プロの方々はもちろん、多少いちごのことを知っている方ならば、「早く定植すれば、早く収穫できる。」などとは思ってはいない。それは花が咲く(花芽分化)条件が有るからです。早期定植=暑い時期の定植が難しい理由はそこに有る。だから、早期の収穫を目指すために、夜冷育苗などの方法が考えられたのです。

「クリスマスになってケーキにいちごがのっかって、ああ、いちごのシーズンだなってみんなが感じていちごが売れるようになるんだよ。」うーん、うまいことをおっしゃる。

まだ、収穫台車もその出番ではなく、使ってもらう時を待っているかのようだ。

猫?

猫がいる。あれ、猫飼っていたっけ?
「野良猫が住み着いちゃって。」とTS様。外は寒いけどハウスの中は暖かいからね。でも、追い出さなくてもいいのかな?収穫始まって、人が居る時間が長くなれば出ていくのかな?
おっと、猫のコラムではない。

「暖房は入っているの?」「まだです。最低気温が○○℃になると入る設定です。」猫が居る機械が暖房機だ。タイマーは4段サーモのはずだ。これは藤枝市=JA大井川にて静岡経済連方式「のびのびシステム」での基本の暖房機だ。
JA大井川のみならず、静岡県下ではいちご栽培において地床栽培の場合は暖房機を導入していない場合が多い。元々が温暖な地域であるので、いちごが休眠する温度まで地温が下がらないからだ。(二重カーテンはします。)
だが、高設栽培となると話は変わる。暖房を入れなければ、ハウス内も外気温度とほぼ同じになる。GFT-17を使用しているから、培地は少ない。培地はハウス内温度とほぼ同等まで下がります。
プラスチックプランターの長所であるのが培地温が上げやすいことだが、逆にとれば短所としては培地温が下がりやすいことでもある。
保温効果は発泡スチロールベッドのほうが高いことはこのシステム導入後に静岡県志太榛原農林事務所が調査・公開してくれているので間違いない。発泡ベッドであって暖房機導入は必須になる。保温効果が高くても、培地温は下がってしまう。(「のびのびシステムの栽培ベッドはプラスチック製のGFT-17と発泡スチロール製の2種類がある。)
「のびのびシステム」が導入された2000年にはネ〇ン社の暖房機にはすでに4段サーモ付きが販売されていた。
4段サーモとは1日を4つの時間帯に区切り、その各々での温度設定が可能なタイマーだ。4つの時間帯は別に6時間ごとではないことが特徴です。
会社のハウスにも4段サーモとまで言わないけれど、毎日設定しないで済むタイマー付きの暖房機が欲しいなあ。休日に会社に来なくていいし。(無いものねだり。)

この後もTS様とのいちご談義は続きます。早期定植はやっぱり難しいよね。とか、栃木はどうなってるのかね。「スカイベリー」、食べたことないよ。「とちあいか」はどうなんだろうねとか。

気が付けば13:00を回っているではないか。本当に生産者様と話をしていると時間を忘れてしまう。と言うか、迷惑を掛けてしまっている。本当に申し訳ないです。でも、うれしくてそしてありがたいです。

売店横のハウスへ

「売店の方(のハウス)も見ますか?」とTS様がおっしゃってくれる。「見る。見る。」と私。私は帰りがけだが、TS様は自宅が遠くなってしまうのに全く嫌な顔もされずに言ってくれる。
1人で帰り道に寄って見ていくことはできるけど、案内までしてくれるなんて。感謝、感謝です。
「今年、2棟増やしました。時間が掛かっちゃってビニール貼るのが遅くなっちゃいました。でも、その分ここよりも樹(株)ががっちりできていますよ。」とのこと。
違いが分かるだろうか?でも見てみたい。
2台車を連ねて売店横のハウスへ向かう。

「こんなです。」

この売店横のハウスも赤い果実は見られなかった。
確かにこちらの株の方が先のハウスの株よりも背丈が若干低い。葉面積は同じ程度だろうか。「葉っぱも例年より小さくて恥ずかしいです。」とTS様はおっしゃる。でも、小さいとは感じなかった。そして、こちらのハウスの花も揃っていて、果茎が太く、上に向かっている。

増設?!

確かに2棟増設されていた。「もっと増やそうかいつも迷っています。」まだ私よりも10歳以上若いTS様がそう思うことに無理もない。この地区で高設栽培を導入したときは藤枝市のK様は50歳になろうかという年齢だった。同じいちご部会には60歳を超えた方もいらっしゃった。将来自分がいつまでいちご栽培ができるのか考えた場合に新しい技術を導入することや規模拡大に躊躇することは当然でしょう。
なぜならお金が掛かるから。そして、未知の技術に不安を持つから。それでも高設栽培を導入された。今まで培ってきた地床栽培の技術を捨てることになるかもしれないのに。高設栽培に移行することによって、省力化でいちごを栽培ができる期間(年数)が延長できるというメリットに賭けて。
先駆者は結果の予測のみで走り出すから先駆者と言うのだ。信じたことは実績ではない。だから、言い回しとして適当であるかは別として「賭け」と表現させてもらうことをお許しください。でも高設栽培を導入した皆さんは「博打打ち」ではない。今までの経験から十分にそのメリットを引き出すことができると予想しているからだ。そして、その考え方は間違ってはいない。なぜなら、高設栽培から地床栽培に戻った生産者様を私は見たことも聞いたこともない。

だけどTS様が迷っていた理由はほかにあったんです。そして、その理由は私には分かっていました。
「面積を広げて今までと同じように目が届くだろうか?納得できるいちごが作れるだろうか?」
私がお邪魔している生産者様達は同じ考え方をする方が多いです。いつの作であってもベストを目指している。これで十分だとは思っていない。傍から見ればこれでいいんじゃない。と思っても更にその上を目指している。
現状で満足していないし、妥協もしない。それなのに栽培面積を増やしたら今より良いいちごが作れなくなってしまうんじゃないかと考えている。

私は何も言えなかった。無責任に「広げていいんじゃない。TS様ならできるよ。」とはとても言えない。「章姫」にこだわり、「章姫」に惚れ込み、最高の「章姫」を作りたい。と思っている方に簡単に言えることではなかった。

このような事例はいちごに限ったことではないでしょう。もっと言うならば農業だけのことでもないでしょう。
長蛇の列ができるラーメン屋さんがある。チェーン展開して多くの店舗を経営したり、弟子がいて暖簾分けで店舗が増えることがある。一方でメディアへの露出を拒否してスープがなくなれば営業終了のようなラーメン屋さんもある。
どちらが正しいかと聞かれても、他人がどうこう言うことではない。当事者が正しいと思ったことを選択しているから。だけど、どちらが好きか決めたって構わないでしょ。自分以外の人に強要しなければ。

私は迷うTS様が好きだ。私自身も自分の仕事のクオリティを落としたくない、いやもっと上げていきたいと思ってずっとやってきたから。
また、品質を上げることと効率を上げることでは意味が全く違う。以前にも書いていますが、効率を捨ててでも品質を上げたい生産者様は存在する。
どちらも上がればそれが1番良いことです。それでも、効率よりも品質を優先したいと考える方々を誰が否定できよう。

「こんなんでコラムの題材になる?」心配までしてくれるTS様。「全然、大丈夫ですよ。」と私。
個人のHPでコラムを書くのならば、アクセス数を稼いでくれる赤い果実がたくさんぶら下がっている圃場の写真を掲載していたほうがいいだろう。
でも、このコラムの目的はいちご生産者様の状況や考え方を伝えることが目的だ。いちごの果実の写真が1枚も無くたっていいんだ。これが2022年12月初旬のこの地区の現状なのだから。

TS様はこんなこともおっしゃってくれた。「Mさんのコラムにはこの地区のアイポット導入以降のいちご栽培の歴史が書いてある。誰かが残さなくてはならないと思うけど、その当時を知る人も少なくなってきたし、資料も紙ベースで残っていない。それを書いてくれている。また、知った人が登場することもうれしい。だから、私なんかが載っかっていいんだろうか?」とも。
最高の賛辞を頂いた。こんな風に感じて読んでくださる方がいてくれたことに心の底から感謝しています。TS様は「いちご日記」でのメインキャラクターの一人です。だから初回に登場、頂いているのです。地域が限定していて「こんなもん参考になんかならない。」と感じておられる方も大勢いるのだろうとは思っています。
それでも、また書き始めた。書かせて頂ける機会をもらったから。

もう2週間もすれば、こんな長時間話ができないでしょう。収穫・詰め作業で猫の手も借りたくなるんじゃないかな。(ここで猫が出てくるワケです。)
「それじゃあ、また。」「ありがとうございました。また、寄ります。」
寄りますってことは今度は着果した状態の写真を撮って文章にしてこのコラムに載せることだよ。とは口にはださないで心で思い、ハウスを後にした。

鎮魂歌(レクイエム)

2021年4月5日 藤枝市のK様が逝去されました。満76歳。 今の時代では早すぎる旅立ちでした。
K様と初めてお会いしたのは1996年4月でした。私とは四半世紀のお付き合いをさせていただきました。
いちごのことなど全く分からなかった私にいろはのいから教えてくれたまさに先生でありました。
いちごのことだけでなく、困ったことの相談もいっぱいしました。すでに、両親を亡くしている私にはほんとうに頼れる「叔父貴」でした。
この原稿を書いている今、目は涙で溢れ、指は震えが止まらない。キーボードが上手く押せない。

実は2021年3月に「いちご日記」の最終回を書こうと思い、K様にアポを取ろうと思って電話を入れたんです。そしたら、入院してるって。

えっ、どうして!?

すでにコロナは蔓延していて病院にお見舞いに行くこともかなわず、その電話がK様との最後の会話になってしまった。
きっと、元気になられて「おぉ、久しぶりだな。」と再会できると思っていた。あの笑顔をまた拝見できると思っていた。もっともっと、お話を聞きたかった。

それから、「きちんと「いちご日記」に決着をつけなきゃ。」と思っていたのだけれど、やっぱり書けない。K様との会話を最終回にしたいと思っていたのにどうすることもできない。

そんな私に書く勇気をくれたのは本日登場のTS様でした。
2023年産のいちご苗を分けて戴く日程の調整のために8月下旬に訪問したのです。会社にて私が300本弱のいちご(らしきもの)を管理させて頂いていることは以前この日記にも書かせて頂きました。2021年産分からTS様に苗をお世話になっているのです。
TS様との会話はいちごのこと。そしてK様のこと。会話中にTS様が「Kさんは死んじゃあいないよ。俺たちの心の中に生きている。」と言ってくれたのです。
「Mさん(私)の文章、読んで褒めてたっけよ。」言葉に助けられた瞬間でした。

人が生きていくためには悲しみに勝たなければならないことが多い。でも、この悲しみが消えることはないだろう。だからこの悲しみはずっと私の中にある。
同じような思いを持っておられる方々はたくさんいらっしゃるでしょう。それでも人は前を向いて歩いていく。

「また、(いちご日記)書いてよ。」TS様が言う。
「いちご日記」再開を決めた瞬間でした。

柄にもなくしんみりした内容になってしまいました。でも、書かずにはいられなかったのです。「いちご日記」を再開するために。自身の気持ちに区切りをつけるために。

次回からはいつものゆる~い感じで圃場からの声をお届けしたいと思います。
寒い日が続きます。コロナだけでなくインフルエンザも流行しているようです。皆様方におかれましてもどうぞお体ご自愛くださいませ。
では、皆様 またお目にかかりましょう。See you soon.

いちご日記の著者:M
農業関連資材の元営業マン(現在は社内いちご農園の管理人)
2023年還暦を迎える年男
文章のお手本はハードボイルドの化身 北方謙三 先生
最近の事件…ミツバチに初めてさされたこと

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