農業コラム

  • 日本農業
  • 2021年08月25日

【日本農業の現状と未来⑯】第5章:日本農業を取巻く環境 その3

第16回 日本農業の未来

皆様、こんにちは。
毎日、暑い日々が続いておりますが体調など崩されておりませんか?
私も年々、季節の温度変化に体がついていかない状況になってきています。皆様もどうぞお体、ご慈愛ください。

東京オリンピックが終わりました。
日本勢の活躍には本当に感動しました。勝利での嬉し涙も敗北での悔し涙も、応援しているだけなのに一緒に泣いてしまいました。
スポーツには嘘がないから感動する。作られたストーリーじゃないから胸を打たれる。見ているだけでも熱い気持ちになる。
そして今度はパラリンピックです。
アスリートの皆様には、その実力を十分に発揮して頂きたいと思っています。

頑張らなきゃいけないのは我々も一緒です。新型コロナウイルス感染拡大が続いています。どんな方法が感染収束に有効なのか専門家の意見もまちまちです。一般の我々に今、できることは外出自粛や、可能であればワクチン接種しかないのかもしれません。
可能な範囲でお互いに努力していきましょう。

さて10ヶ月にも及んだ本コラムも今回が最終回です。
筆者の独断と偏見の塊のようなこのコラムにお付き合い頂きましたこと、本当に感謝申し上げます。
最終回ですが果たしてまとめができるのか、不安になりながらの書き出しです。

日本農業の未来予想

日本の農業は今後どんな形になっていくのでしょうか。

第15回で取り上げた植物工場は閉鎖型がまだ増えるでしょう。
それに伴い、ロボット技術やIoT(モノのインターネット化)、ICT(情報通信技術)の導入は進むでしょう。
自動走行のトラクターや田植え機、収穫用ロボット、農業用ドローンなどが普及していくのではないかと考えます。
「下町ロケット」の技術は現実となるのです(多分)。10年程前になりますが、苺高設栽培用夜間収穫ロボットの試作機は既に存在していたのです。


また、販売の形態も変わっていくでしょう。
JAに出荷した農作物が市場へ行き、そこからスーパー等の店頭に並ぶだけではなく、インターネット販売で生産者から直接消費者へ、いわゆる卸業者を経由しない販売方法は現在よりも増えるでしょう。
直販によって生産者(企業含む)の利益率向上も推測されます。
生鮮食品の場合は難しい問題もありますが、加工品となればやはりインターネットにより海外での販売も見えてきます。
外食産業の植物工場参入は今後、更に増えるでしょう。安定供給・食の安全というブランドを求めて。

日本の農家の現状

現在の「農家さん」スタイルでは難しい部分が多いだろうことは予想できます。

その問題点は
 ・収入が少ない=農作物価格が安い
 ・重労働
 ・定期の休暇が取れない
 ・気候に左右されることが多く収穫量が安定しない
 ・すぐれた栽培技術だけではビジネスとして成立しにくい=ビジネスとして教育する時間・機関(組織)が少ない
 ・農家の農家離れが進む中、農家以外からの新規就農者があまりにも少ない

全てが当てはまるということではないのですが、今のままでは上記問題点を解決することはなかなか大変です。
私が営業の時も個人農家さんにおいては、後継者がおられる確率は10分の1程度でした。後継の条件の筆頭は安定収入です。

先に述べた技術や販売方法の変化に対応していくには、各々の分業化が必要になります。
弊社にてお取引頂いている、ある植物工場を運営されている企業様は営業、開発研究、生産が分業化されており、それに管理部門、企画部門もあります。社員の方々の意識は「会社員」です。なぜなら、組織だから。そこには上司も部下も存在しているからです。
でも生産しているのは農産物なのです。だから、製造業じゃなくて農業でいいんじゃないですか。と思っています。

全ての農業がそのような企業化になるとは思ってはいません。しかし第13回でも記しましたが、昨年来の新型コロナウイルスの世界的な発生下において自国優先の輸出制限を掛ける国もでました。
日本においてももっともっと農業は見直されなければなりません。

もっとも、この問題と自給率を即結びつけることには違和感があります。

その前にちょっと寄り道的なこと、書いてみます。

日本の発電

石炭
石炭て皆さん知ってますよね。でも現物を見て触った方はどれほどいるのでしょう?

私は大学生のときに寮生活をしていました。その時の風呂の燃料が石炭でした。初めて見ました。黒い石。本物の石炭。
風呂当番の時、石炭に火を着けることが出来なくて、山形県出身と青森県出身の2人にコーラを奢って着けてもらったっけなあ。
彼らは高校のストーブが石炭で普通に扱っていて、三重県出身の同級生と一緒に感動したことを思い出します。
それ以来は見ても触ってもいないなあ。

日本の消費量は1.9億トン 輸入量もほぼ1.9億トン(2015年, 参考:JOGMEC「世界の石炭事情調査-2019年度-」)
日本の埋蔵量は3.6億トンです。日本で稼働している炭鉱は北海道の釧路炭鉱1ヵ所のみです。その採掘量は年間50万トンです。
石炭は火力発電所燃料(一般炭)・製鉄(コークス)・原料(原料炭)に分かれて使用しています。輸入量は一般炭が多いです。

ちなみに石炭火力発電所は92基あり、発電電気量は2,819億kWhにのぼるようです。東日本大震災の後、原発の代替電源として増加しています。シェア1位はLNG 41.0%、2位 石炭 32.7% そして水力 9.8% 原子力 7.1% 石油等 1.6%
(2019年, 出典:資源エネルギー庁ウェブサイト(https://www.enecho.meti.go.jp/statistics/electric_power/ep002/results_archive.html))

この数字、皆さんの想定内でしたでしょうか。

もう一つ。日本の一次エネルギー自給率は9.6%
(2017年, 出典:資源エネルギー庁ウェブサイト(https://www.enecho.meti.go.jp/about/pamphlet/energy2018/html/001/))
この数字に危機感を感じるのは私だけではないでしょう。カロリーベース総合食料自給率でさえ30%以上を保っているのです。

2020年7月に日本政府は二酸化炭素(CO2)を多く出す、非効率な石炭火力発電所の9割弱を休廃止の対象とする方針を固めました。全国114基ある非効率発電所のうち100基程度を2030年度までに段階的に休廃止したい考えです。
発電の方向性を転換するようですが、果たして代替電源はあるのでしょうか。原子力発電所が新規には作れない状況において、再生エネルギー(太陽光や風力)で賄えるのでしょうか。しかも効率の高い石炭火力発電所は維持・拡大するとも言っている。
つまり、エネルギー源としての日本の石炭輸入は無くならないのです。
欧州各国では石炭火力発電所全廃を目指しています。それは、地球温暖化対策=温室ガス排出量削減のために。これが世界の潮流なのではないでしょうか。

石炭の輸入

話を戻しましょう。

石炭はなぜ輸入なのでしょうか?年間50万トンしか採掘しないということは(採掘場所は一ヵ所ではないが)720年もこの先、掘っていくのでしょうか。
理由として輸入品が国産より安価であること。原油やLNGよりも安いことから輸入需要があるのです。
もっともこの先、火力発電に代わるクリーンエネルギーが出てくれば輸入は少なくなるでしょう。
少量しか生産しないで輸入がやたら多いところ。これって小麦に似てはいませんか?

前回、オランダ農業について書きましたが、オランダの農産物の輸出品で多い品目は花き・牛肉・酪農品・野菜なのです。オランダでも穀物はある程度、輸入しているのです。

日本の製造業も原料は輸入品です。それを加工して工業製品として輸出しているのです。
つまりはその国の持つ技術で、その国が世界に対して優位に立てるモノを作り、輸出しているのです。
国内にないモノは輸入するしかない。日本農業もその風土にあった農作物を作ることが重要だと考えます。

結論

カロリーベース総合食料自給率に惑わされる必要はない。
日本農業は弱体化なんかしていない。むしろ多様化の道を進んでいる。
未来が無いと考えるのでなく、未来は切り開いていくもの。と考えるべき。

このコラムを書こうと思い立った理由はカロリーベース総合食料自給率というものに疑問を抱いたからです。
この数字がトリックとなって日本の農業の未来は暗い。みたいな風潮に対して異議を唱えたかった。

私の息子が言う。「将来の動物性タンパク質は昆虫だよ。だって生育が早いし牛育てるのより手間掛からないんじゃないの。」と。
私が生きている間にはそんな食文化(?)になるとは考えにくいけど、なるほどと思いました。例えば幼虫をミンチにして加工品にしたものなら抵抗も少なく食べられるかもしれません。カエルをつみれにしたものを食べたことがありますが、私はおいしいなと思いました。(ちょっと違うかも。)

本当にしつこいですが、カロリーベース総合食料自給率に何の意味があるのだろうか?
国民全てがベジタリアンになって、米以外の穀物及び穀物からの加工品(パン・パスタ)を食べなければ、100%だって夢じゃない。けど、現実的ではないですよね。
また、それで外交は成立するのか?農作物の輸入無しで工業製品の輸出は現在と同等に成立するのだろうか?
はっきりと言う。「もっと日本農業を知ろうよ。農業にも明るい未来はあるのだから。」

30年も生産農家を見てきているのです。大変ですよ。栽培技術が長けていれば大農家になれる訳じゃない。
売り先も探す。コストも考える。生産・営業・研究・経理・広報全てを行うのです。
新技術も取り入れる。日本人の勤勉なところは農業にだって表れています。だから、いちごだって高設栽培になったんです。液肥コントローラーでECの調整を行います。高齢な生産者様でもタッチパネル操作してプログラム入力しているのです。
新技術には興味があるんです。サラリーマンよりずっと勉強している生産者は存在するのです。

新規就農が少ないことも書いてきましたが、若い人のなかにはパクチーを作ったりする方もいる。
以前連載した「作業改善」はレタスについて書いたのだけれど、レタスは静岡の一部地域ではお茶農家が多く作っています。
お茶単価が低くなってしまった今、冬場に他の農作物を作る方法もある。という見本です。
また、茶栽培をやめた圃場で芽キャベツを栽培する地域もある。これは農林事務所も強く推していました。レシピまでも用意して説明してくれたことを思い出します。ハウスでルッコラを作っている生産者も知っています。

農業には明るい未来はないなんてのは外野の声で、当事者の皆さんや関係機関の方々は本当に努力している。
たとえ、日本農業が今回の始めに書いたカタチにならなくても強い生産者は残る。
それを見ている人がいる。
こんな仕事をしたいと思う若者はいる。
だから、日本の農業には未来がある。

雑誌や新聞やネットのニュースが全てではない。書いている人は農業のことを本当には分かっていないのです。
なぜなら、農業従事者として働いた経験がない人が多いから。この私を含めて。

最後に

農業は今までの形も残る。それは匠の技のような技術を持った生産者を中心に。
そして新しいビジネスの形としても発展する。植物工場を基盤として。
さらに新しいチャレンジの場を農業に見出す若者は必ずいる。今もこの先もずっと。


最後まで読んで頂いて本当にありがとうございました。 完