いちご日記

  • 2020年11月02日

定植時期到来です。

皆様、こんにちは。不定期掲載の「2020年 いちご日記」をご覧くださいましてありがとうございます。
「まだ、書き足らないのか。お前も好きだなぁ。」と画面の向こうの皆様の声が聞こえてきそうです。いやいや「やめろ。」と言われるまでは書いていきますよ。
しかも、今回は長い。最後まで読んでくださいね。

生産者の皆様におかれましては、長梅雨の影響で苗作りにご苦労されたことでしょう。その後の夏の暑さもいちごにとっても人にとっても良いことではありません。
苗不足の情報もあまり外に出ることのない私にも伝わってきています。
今年は甚大な被害が発生した大きな台風は来てはいませんが、昨年は10月12日、13日に台風19号が猛威を奮い大きな被害がでました。長野県のJRの車両基地が千曲川氾濫のため浸水しました。N500系新幹線が水没した映像をご覧になった方も多いでしょう。すでに台風の季節は過ぎたのであんな奴は今年は来ないでしょう。いや、もう爆弾低気圧も来るな。

いちごはどうなっていますでしょうか。
お邪魔したのは藤枝市のTS様の圃場です。9月最下旬。定植が完了した頃を狙って訪問します。

藤枝市TS様の圃場のご様子

今回撮影させて頂いた圃場は、2020年2月25日掲載「5年ぶりの訪問」で写真を撮らせて頂いた圃場とは別のハウスです。TS様は2カ所にハウスを持っておられます。

「お久しぶりです。」とTS様。お母様と一緒に登場です。
「お世話になります。」と私。いつもいつもご面倒をお掛けします。

実は今回の訪問にはもう一つの目的があったのです。我が家のいちご(らしきもの。)の苗を受け取りにきたのです。
以前にも書いておりますが弊社にて試験的にいちごを栽培しています。許諾権の関係から品種は「章姫」に決めています。
TS様宅を昨年から再訪問させて頂いていますが、いちご栽培をしていることを伝えるとTS様「2020年産の苗は私に任せてください。」とおっしゃってくれたのです。
TS様は「章姫」を栽培しています。「是非、お願いしたいです。」と私。2月時点で今作の苗の手配完了です。ありがたいことです。

苗の手当をお願いすることは実は結構、気を使います。なぜなら、全滅もありえるから。先に書いた台風などの自然災害で苗に被害が出ることはめずらしいことではありません。実際に露天でのパネル育苗時にパネルごとアイポット仮植中の苗も風で飛ばされた事例を知っています。「すぐ、パネル持ってきて。」と電話で依頼された経験があります。
更に病気の発生で生産者様自身の定植本数を確保できなかったと言う話は日常茶飯事です。TS様も今この時に近所の生産者様から苗の供給依頼を受けているのです。

2月の時点で苗を分ける約束ができるほど自信があるのです。余り苗ではありません。写真を見ていただければ分かると思います。しかも若苗でこれなら活着もいいだろうと思える苗です。本当に腕をあげたなぁ。すばらしい。私の管理が下手くそでも今年は果実に期待が持てる。そんな苗です。


苗をコンテナに詰めていると「今年も半分終わりました。いや、もっとかな。」とTS様。
『苗作半分』。私がいちご資材の営業を始めた頃、良く聞かれた言葉です。当時は養液栽培もほとんど普及していなかったから、変な表現と思われるかもしれませんが、『強い苗を作る。』その必要性が現在よりも高かったと思います。

TS様「しっかりとした苗を作らなくては品質が良い果実はできませんよ。量も取れません。」とおっしゃる。本当に基本に忠実な栽培です。「でも、ここまでくるのには時間も掛かりました。」TS様は言う。いつまでも謙虚でまじめなその姿勢にいちごは答えてくれる。素敵なことです。
確かに定植が終わってから樹を作るために様々な工夫はします。しかし、強い苗ならばその工夫にも答えてくれるし、いや、変な小細工をしなくてもしっかりした樹になるし果実もしっかりできます。『仕事は基本が大事。』当たり前のことです。いちご作りは苗が基本なんだと今日改めて思う時間でした。

お父様もいらっしゃった。やっぱり、TS様のところに来たのならご両親様にも会いたいから嬉しい。

帰り際、「今日のヤツ、HPに上げるからね。」と私。
「えー、恥ずかしいよう。」とTS様。
もう書いちゃった。TS様も読者なのです。会うたびに「日記読んでます。」と言ってくれる。本当に嬉しいし本当にありがたいことです。

TS様、お父様、お母さま。ありがとうございます。取材で仕事の邪魔をして更に苗を分けて頂いて恐縮してしまいます。「申し訳ないです。」と言うと「いいだよ。」と必ずお三方ともおっしゃってくれます。また、収穫時期に寄りたいと思っています。本当にありがとうございます。

藤枝市K様の圃場のご様子

ところ変わって今度は藤枝市のK様圃場です。
伺った時期は10月中旬。やはり、定植が完了した時期を見計らっての訪問です。


「こんにちは。お世話になります。」と言いながら本圃ハウスに入っていきます。「おう、待ってたっけ。」とK様。このところあんまりいじられないなぁ。少し残念。
とにかく本日もお世話になります。よろしくお願い致します。

さて圃場はどんな塩梅でしょうか。懐かしのイレクター製架台で作ったベンチに乗っかるいちごです。

なるほど、からかわれない理由は苗の状態にあったのですな。非常に綺麗で立派な苗です。

今年は「紅ほっぺ」と「章姫」を定植されています。
K様は9月19日から定植を開始したそうです。約半月経過していますが、病気苗の植替えはほとんどないとのこと。普通のことに思う方もいらっしゃるとは思いますが、実は静岡県下では今作は苗不足なのです。
「去年よりも多く植えただ。」とK様。昨年減らした部分にも今年は定植してあります。
「こんなに増やしてどうするだか。」とここで奥様参戦。「大変だから減らしたのにまた、増やして。」でも表情はまんざらでもないご様子。やっぱり、良い苗を植え付けできればにこやかな顔になりますよね。多分、それはいちご生産者のみならず、全ての農業従事者、いや、良い仕事ができたと捉えるならば全ての労働者が笑顔になるのです。
それよりなにより定植苗を確保してまだ、苗があることが普通なのがすごいことなのです。理由は後述します。

「今日、M(私)が来るってTS(様)に話したら、こっち寄るって言ってた。でも、焼津で仕事してからだからもっと遅くだろ。」とK様。
まあ仕方ないよね。と思っていると何やら車の近づいてくる気配。
「こんちは。」とTS様。あらお母様も一緒だわ。なんか得した気分の私。
「いいじゃん。良くなったね。」とTS様。本当にそう思います。でも、生産者でもない私が同じことを言っても受け取る方に響く言葉の重さが違う。
「巡回で他の(生産者様の)ハウスに行くとな、苗や樹がおぞい(=粗悪 静岡方言)と仕方がないからハウスや施設を褒めるしかないだよな。」とK様。
TS様の言葉はつまり今作、定植まではK様も順調に行ってる証拠なのです。
「大丈夫だかしん。」K様の奥様は言う。「大丈夫。これなら。(果実を)詰めるの忙しいよ。」とTS様のお母様。いい会話だー。


この後もいちご談義は続きます。アイポット苗を植え付けるタイミングなども教えてもらいます。でも、ここでは書かないよ。だって企業秘密と同じだから。
たまたま、今年はいい苗が採れたわけではないのです。K様も長年の経験もあるし、何よりもTS様のように息子ほど年齢が違う相手であっても自分と何が違うのかをしっかりと聞いて栽培に活かしていく。「俺は俺の方法でいいんだ。」と頑固になっていては変わる品種や年々暑くなる育苗時の気候には対応できないでしょう。簡単そうで中々できることではないです。

我々、会社員も同じです。会社に入って鉛筆と電卓で仕事していた時代からパソコンに代わる。生まれたときからパソコンに慣れ親しんでいる年代とは成り立ちが違う。
パソコンを使わなければ今の仕事は成立しない。分からないことだらけで自分でも調べるけれど、部下に操作を教えてもらうことは普通にある。パソコンに「俺のやり方」はないのです。常に新しい情報を吸収して応用して蓄積していくのです。
生産者様の姿勢には、何度も書きますが本当に頭の下がる思いです。

そんなこんなで今日も2時間程度お邪魔してしまいました。TS様御一行も帰られました。私もお暇しましょう。
K様、奥様ありがとうございました。今度寄らせて頂く時は収穫で忙しいでしょう。多分、次回は私を待ってるなんて状況ではないと思います。どんな果実を収穫しているのか私も今から楽しみです。本当にありがとうございました。

静岡市S様の圃場のご様子

今日はもう一軒寄りましょう。
清水区のS様宅へ車を走らせます。

今日はS様、奥様、お嬢様とアイポットを洗浄しています。うーん、一体何万本あるんだ? 2万以上はあるよね。いや、4万本かな。こりゃ洗うだけでも大変な作業だ。

おお、左奥にはまだアイポットに仮植してある予備苗が見えます。S様もご自分で全ての定植苗を確保しています。
もっとも2020年9月3日掲載「暑いハウスからお届けします(2020年8月)」で掲載した「章姫」の夜冷苗は他県の生産者様に送っているのですから、ご自分用は当然のごとく確保していたのでしょう。

「いらっしゃい。」とS様。いつもの笑顔です。
「お世話になります。」本日もよろしくお願いします。
「今日は山へいってみるか。」とS様。ご自宅とは違う場所の圃場です。
「行きましょう。」と私。

社有車で現地に向かいます。久しぶりに見させていただく圃場です。
山といっても山ではないです。丘と表現するとイメージが湧くかも。新東名の橋脚の間の道路を走っていきます。
この日記では初めて掲載する圃場の写真です。

「きらぴ香」です。こちらは普通育苗。

同じく「きらぴ香」。こちらは夜冷苗です。

昨年からS様の夜冷育苗を日記に掲載してきました。定植後の比較をしてみてください。

私が全く説明もなく圃場を見てもどちらが夜冷なのか普通育苗なのか分かりません。でも見る人が見れば一目瞭然でしょう。写真では分かりづらいのが残念です。私が言えたことは「がっちり作ってるよね。」位です。
S様、「この品種はクラウンが段々浮いてくる様なる。深植えしないと、樹がぐらぐらしてきちまう。」なるほど、採苗もそうだったけど本圃定植も深植えしてる。こりゃ、がっちり作らなくちゃ(背丈をあまり伸ばさないようにすること)樹が倒れそうだな。
「この時期”きらぴ香”は葉が上に向いているようじゃ、後半(春先以降)難しくなっちまう。」なるほど、2年目で昨年とは方法を変えているのです。やっぱり勉強してる。

S様、定植開始は9月17日からだそうです。夜冷があるのでほんの数日ですが定植時期が前倒しになっています。定植開始からもうすぐ1ヵ月というところです。ランナー除去していません。
S様、「定植から1ヵ月は触んないよ。」とニンマリしています。理由は聞きません。だってこれも企業秘密だから。
「ほとんど(病気での)苗の植替えもしてないよ。」とS様。さすがです。

一通り見学させて頂いてから自宅に帰ります。それから自宅の圃場を覗かせていただきました。ここでちょっとびっくりしました。

見てください。出ているランナーの長さがどれもほぼ一緒なのです。

つまりは苗の生育ステージが皆一緒になっているということ。
S様は土耕です。養液土耕ではないです。それなのにこんなに揃っている。
高設を含めた養液栽培でもここまで生育ステージが揃うことは稀でしょう。土耕なのですから、定植後に何等かの手を加えたのではない。つまり、育苗時から生育ステージを併せ、同じ生育ステージの苗をこの畝に定植したということ。やっぱり、S様も「苗作半分」なのです。いや、定植後の操作がほぼできない土耕では「苗作9割」位なのではないかと思います。はっきり言います。すごいです。
もっとも当のS様は私が変なことに感心してるなあ。という表情。この姿はS様の栽培では当然のことなのでしょう。やっぱり、すごい。
果実は揃って生育していくでしょう。収穫時には相当な省力化となるはずです。道具を使わない省力化。そんなことができることに感動します。

S様、16時には外出されるとのこと。お忙しいのに時間を割いて頂いて、更に奥様、お嬢様が作業されているにも関わらず圃場見学させて頂いて本当に恐縮してしまいます。
ありがたいやらすまないやらいっつもお世話になるばかりなのに皆様、にこにこ顔で迎えてくれます。本当にありがとうございます。

収穫時には図々しくお邪魔させていただきたいと思います。また、よろしくお願いします。後ろ髪を引かれる思いで帰途につきます。
「また、おいで。」とS様。会釈をしながら車を発進させます。ありがとうございました。

静岡県での苗不足

取材させていただいたお三方は皆、ご自分で定植苗を確保されていました。それだけでなく委託された苗も生産されていました。
今年の静岡県下ではすばらしいことです。なぜなら、今作では静岡県は深刻な苗不足の状況なのです。
どんな状態なのか。

静岡新聞 10月21日(水)夕刊では
「イチゴ、夏場の育苗不調 静岡県特産、クリスマス需要に影響懸念」
静岡県特産のイチゴ栽培で、育苗の不調が深刻化している。原因は夏場の記録的な長雨や猛暑。イチゴ栽培は「苗半作(なえはんさく)」と呼ばれ、苗の出来で作柄の大半が決まるほど育苗の比重が大きい。毎年のように発生する異常気象への対応が喫緊の課題になっている。
≪中略≫
JA静岡経済連野菜花卉(かき)課によると、こうした苗不足は全県的に生じている。県内の2018年の定植本数は690万本、19年は907万本。いずれも台風など天候不順の影響を受けて例年より少なかったが、今年はさらに下回る可能性がある。近年は残暑で定植時期が遅れている上、今季は深刻な育苗不調も重なったため、ケーキなどクリスマス需要への影響も懸念されている。≪以下省略≫

台風で本圃ハウスが破損したとか雨で本圃が水没したということはこれまでもニュースになりました。しかし、苗不足でこのような記事が掲載されることは今まで(私の記憶では)なかったと思います。しかも、夕刊ながら1面のトップで掲載されたのです。
省略しましたが、記事後半では育苗専用ハウスの確保や潅水方法の改善を呼びかけています。
しかし、年々厳しくなる育苗期の暑さに加え品種の変化によるランナー発生量の違い、つまりはランナー発生が「章姫」と比較した場合にその後に登場した品種は少ないことで「ランナー受け」時期を早めてしまう傾向があること。よって切離し時期も前倒しになります。そのタイミングでの長雨により病気の発生・伝染が例年よりも深刻であったのです。

記事では書かれていませんが、タンソ病は発病が25℃以下です。罹病していても高温では発病しない。育苗時期が前倒しになることで残暑であっても定植してしまう。よって定植後に気温が下がり発病する。定植後に苗の植替えをしたくても親株はすでに苗を採苗できる状況にない。定植前に苗不足の状態となる訳ではなく定植後の植替え用の苗が無いからこそこの時期に新聞記事になるのです。

上記でTS様の言葉『苗作半分』はこの新聞が発刊される前におっしゃられた言葉です。
本日、登場された生産者様は「そんなことは当たり前」であって、実際苗には困っていないのです。今更ながらにすばらしい生産者様に巡り会えたなと感じました。
基本に忠実であること。過信しないこと。研究熱心であること。人の話を聞くこと。そういうことを忘れないことが既に身についていて、当たり前になっている。全ての仕事に通じることです。


今回は仕事に対する姿勢をいちご栽培の現場からお伝えしました。
少し生意気な表現があったやもしれません。お気を悪くされた方がいらっしゃるかもしれません。ごめんなさい。

本来、3回に分けるべきところを1回で書いたため、長文となってしまいました。最後までお付き合い頂きありがとうございます。


長かった残暑も終わり秋風が吹いたと思ったらもう冬がやってきます。皆様におかれましてもお体十分にご慈愛ください。
次回の掲載時期はお約束はできませんが、春までには収穫編を書いて2020年度版は終了したいと思っております。
最も、アクセス数が激減したら掲載できないかもしれません。そうならないことを祈っています。

それでは皆様さようなら。お元気で。また、お会い致しましょう。