農業コラム
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- 2024年06月13日
「お茶」の話 レール式茶摘採機とレール式運搬台車
皆様、こんにちは。桜のシーズンも終わりましたね。
散りゆく桜、素敵な時間をありがとう。また来年素晴らしい景色を見せてくれるよね。
単身赴任をしていた頃は桜の開花時期が静岡と赴任先ではズレがあるので桜を楽しむ時間が長かったです。
営業で出かける時は桜が咲いている場所を選んで通るようにしていた記憶があります。ある川の堤防沿いの道は道路の両側に桜が植えてあってシーズンの終わりは風が吹くと本当に桜吹雪状態になったなあ。その道を走るのが好きだった。
て、桜の話になってるじゃないか。
はじめに
今回は弊社、矢崎化工が関わった「お茶」に対する生産資材について書いていきます。
お茶の生産は関東から九州 鹿児島までで行われています。
ただし、抹茶だけは栽培・収穫方法が煎茶とは違いますのでここでの対象とならないことをご理解ください。
2024年は静岡茶市場での初取引は4月12日金曜日でした。これは過去最も早い取引開始です。
前日は遅霜の恐れがありましたが、霜が降りることはなく日課の散歩でも防霜ファンは回ってはいなかったです。
ちなみに12日取引の最高値は静岡市清水区の両河内茶業会が出品した「高嶺の香」(たかねのはなと読む)1kg=111万1111円でした。
そんな茶所の静岡市に本社を置く、矢崎化工がお茶に係わる仕事ができないかと考えることは自然の流れであったと考えています。
本題に入る前に現在のお茶の生産について書いてみます。
ちょっと資料を見てみましょうか。
お茶の生産状況
グラフ1
グラフ2
【参考】「農林水産統計」農林水産省 大臣官房統計部 2024年2月20日 公表
令和5年産茶の摘採面積、生葉収穫量 及び荒茶生産量(主産県)
荒茶の生産量日本一は静岡県。微差の2位が鹿児島県。ちなみに静岡県ではこの報道には頭に「かろうじて・・・」とついてきます。荒茶とは・・・生葉を蒸す→揉む→乾燥 この工程で製造されたお茶を荒茶と言います。JAなどで集荷され茶問屋に納入されるまでのお茶。
私は静岡でも茶栽培の盛んな地区(田舎)に住んでいます。前回の「いちご日記」で防霜ファンの写真を掲載しました。
苗半作?違うな苗八作だな。
その撮影には歩いて行きました。近所には製茶工場も(大分減りましたが)あります。
実は私はお茶の仕事に携わる前までは荒茶がスタンダードなお茶だと思っていました。
実家には茶園があり私が小学校低学年のころは茶刈りをしていました。生葉は向かいの生産者様の製茶工場で荒茶となり、それを飲んでいました。
茶刈りを辞めてからも近所から頂いたりしていたため、荒茶しか飲んでいなかったのです。
それは小中学校の給食のお茶も同様であったので高校以降では実は煎茶も飲んでいたのでしょうが全く気にすることがなかったのです。
自分でお茶を淹れることもこともありましたが、茶葉を買うことは現在まで1度もなく、実家などからもらった茶葉しか使うことはありません。
お茶どころに住んでいるので葬祭の引出物もお茶ということがは皆無だったです。
荒茶が茶問屋に入ると更に仕上げ加工(再生)の工程が行われます。再度の乾燥そしてブレンドするのです。A地区品とB地区品など複数で収穫された茶葉をブレンドします。一般に市販されているお茶はこの仕上げ加工品=煎茶です。
子供のころはお茶が茶箱一杯に詰まっていました。そこから茶缶に詰めなおして食卓に置かれていました。それは全て荒茶でした。
煎茶ではあまり見かけない茎部分も交じっていて「茶柱が立つ」という現象も普通の事でした。仕上げ加工されたお茶ではなかなか見れませんね。
「またコイツなかなか本題に入らねえな。」とお思いでしょうがもう少しお付き合いください。
下のグラフをご覧ください。
グラフ3
グラフ4
グラフ5
グラフ6
この4つのグラフから何が読み取れるでしょうか?
グラフ3で一番茶の摘採面積も全国1位は静岡県、続いて鹿児島県。グラフ4及び5も同じ結果です。ただし、比率が全く違う。
その理由がグラフ6です。単位面積当たりの生葉収量は静岡県は鹿児島県や三重県、京都府よりも少ないのです。
なぜなのか?茶を生産している状況が全く違うからなのです。静岡県では中山間地での栽培が多く、機械化への移行が遅れ気味。
鹿児島県は現在主流の乗用型摘採機が広く普及していることからも分かるように平地での栽培が主となっている。
収量を確保する方法が違う。また、お茶は市場入荷の時期が早いほど単価が高い傾向にある。
市場に入るお茶で一番早いものは種子島産です。
鹿児島県では単位面積での収量が多いから量で価格が補える。静岡県は中山間地が多い=平地に比較して生育が遅いため、ミル芽(柔らかい。=葉が大きくない。)摘採を行う場合が多い。
私は30歳頃からしばらくの間(10年程度)、知り合いのお茶摘みの手伝いをしていました。
その方の茶園は静岡市でも安倍川の上流で急斜面が多かったです。手伝いに行く茶園の近くには農産物直売所があり、そこにやって来るお客様がお茶の手摘みを珍しそうに見ていることがしばしばありました。
ある時、「珍しいね。まだ手摘みなんだ。」と声をかけられました。
その方は牧之原からやってきたお茶生産者様でした。
「うちのほうはもう一番茶終わって遊びに来たんだけど、ちょっと摘ませてくれない。」と。
「どうぞ、摘んでください。私も素人みたいなもんですから。」
「いやー。お茶摘むの何年ぶりだろ。うまく摘めるかな。」少しうれしそうでした。
20年以上も前の会話です。その頃は牧之原も可搬機が主流でした。
手摘みはすでにほとんどなかったと記憶しています。お手伝いに行った茶園は一番茶は全て手摘みでした。
人手が必要だったためお茶摘みさんを頼んでいました。
私がお手伝いに伺う日は土日曜日とGWだけです。お手伝いに行くとお茶摘みさんに歓迎されたものです。
急斜面で摘んだ茶葉を道路まで運ぶために背負い籠一杯の茶葉の上に茶袋を載せて谷底から道路まで登らなければならない茶園が結構ありました。
お茶摘みさんは女性でしたので私が行くと茶葉を運ぶ係が私になります。お茶摘みさんは重労働が少なくなる。
よって喜ばれたのです。
今はその知り合いの茶園も機械刈りになりました。とは言ってもやっと可搬機です。
とても乗用型摘採機が入れる圃場ではありません。
鹿児島県では1970年代から乗用型摘採機が導入されています。私は実際には見たことがありませんが、写真で見ると畝の長さが100m程度あるような茶園が見えます。平坦であることも乗用型茶摘採機には向いているでしょう。
可搬型摘採機
乗用型摘採機
弊社の「レール式茶摘採機」開発
さて、やっと本題です。
茶刈り作業が可搬式茶刈り機が主流であった頃、それは1980年代の半ばですが、2人作業が1人にならないか?という問題がありました。
可搬機は2人の作業となるからです。すでに農業従事者は高齢化が進んでいて、後継者不足もすでに深刻な状況でした。
その問題を解決するべく、レール式茶摘採機の開発が始まったのです。矢崎化工は当初茶刈り機メーカー様へのレール部材の供給だけでした。
また、ペットボトルのお茶がほうじ茶しかなかったところに緑茶のペットボトルが登場しました。それはあっと言う間に広がります。同時にペットボトル用の原料として海外の安価な茶の輸入が増加していくのです。
お茶がペットボトルが主流になって現在は急須のない家庭もあるとか。お茶を淹れる文化が無くなっていくようで少し寂しいです。
話を戻します。お茶に付加価値を付けるとするならば高品質の国産というイメージが必要。そう考えたのです。レール式茶摘採機で刈ったお茶はいつも同じ軌道で作業できるため、可搬機では手がブレたりして入ってしまう古い茶葉や新芽の下の茎を刈ることがない。手摘みと同等の品質の茶葉を収穫できる。実際に当時、生葉の価格は、可搬機で刈ったお茶<レール式で刈ったお茶<手摘み茶で取引されたのです。
地域によってはレール式の生葉は手摘み茶と同等の価格で取引されたのです。
弊社もレール式茶摘採機の開発がはじまります。そして1992年から販売開始となるのです。
矢崎製レール式茶摘採機(手動式)
刃物は可搬機を取付ける。のちに駆動タイプも販売となる。
こちらが駆動タイプ。発電機と制御盤の有無で判別可能。
矢崎製レール式茶摘採機(片面自走タイプ)概要
【駆動方式】
発電機からバッテリを介して直流モーター 2基を駆動する 発電機が停止してもバッテリである程度の時間は作動する
【脚部開閉】
AーA´を起点として脚部が開閉する。レール幅900mm~1100mm対応。
駆動方式は30年以上前の開発商品なのに自動車メーカーN社のハイブリッド、〇パワーみたいな感じ。ただ、発電機が発する音よりも可搬機のエンジン音のほうが大きくて、発電機の燃料切れでの停止に気が付かない事例が結構な頻度で発生しました。そのままだと次はバッテリ上がりを起こしてしまいます。そうなると、バッテリ交換もしくは充電しなくては作業が継続できない状況になってしまいます。そこは生産者様に注意して確認してもらうしか方法がなかったです。
レール式茶摘採機運用方法(上から見た図)
レールパイプは当初Φ28にて試験スタート。その後タワミ強度を持たせるためにΦ32に変更。表面樹脂も高耐候性を求めてポリエチレンを選択。最終形態はΦ42となる。
スリップ防止のためローレット加工を施す。レールキャスターはΦ32、Φ42兼用できる構造。
※ローレット加工 樹脂の表面に細かな凹凸状の加工をすること。
私は1992年の年末に他部署から移動して農業資材の営業部門に配属となりました。
2人で「茶園レール」を販売していたのですが、自社のレール式茶摘採台車を販売することになり人員増強のために部署移動したのです。
一時はMAX7名の営業マンでレール式茶摘採機及びレールの販売活動を行いました。
レールパイプを茶園に敷設する時期は秋冬番茶が終了してから一番茶の新芽が動き始める前まで。
大体11月から2月位だったです。冬期の敷設工事は寒い中でキツかった。
茶の木より高いモノが何もないから風はまともに体温を奪う。
当時、弊社にはレールを運搬するためクレーン付きのトラックを所有していました。
クレーン操作をするために移動式小型クレーンと玉掛(直接あるいはワイヤーロープなどで荷物をクレーンなどのフックに掛ける及び外す作業)の技能講習にも行きました。
この2つの資格を持っていないとレール資材の搬入ができなかったからです。今でも2つの修了証はカバンの底にあります。
営業的にはどうだったか。
成約率は新規の場合1%程度だった。販売はレールを増設するリピーターの生産者様が中心でした。
競合している他社はJA様との繋がりもあり、導入するための資金融資にもアドバイスが出来る。
使用する可搬機は自社で販売している。
そのほか茶園管理に必要な施肥の機械、裾刈の機械も持っていた。
だから導入予定の生産者様の情報収集は我々よりも数段上手でした。
我々は協力していただける生産者様から製茶組合員の名簿などをもらい、1軒1軒足で営業するしかなかったのです。
一時期は日中に生産者様宅を訪問しても留守なので、勤務体系をフレックスにして夕方~夜、それも夕食時を狙って営業を掛けたりしました。
摘採機の製作は協力していただけるメーカーにお願いしました。
技術的なアドバイスを弊社は行ったのです。問題は傾斜対応だった。
上りは登坂力。茶を摘採すればするほど重量は増す。登れない傾斜もありました。
下りは逆にブレーキの問題だ。加速してしまい、レール端末のストッパーだけで止まれない。
自重も併せて150kg以上を2駆で2基のモーターでコントロールすることが難しい。
そして複合傾斜。斜めに登坂と下りがある圃場だ。
上記の理由に加えて山側の車輪は浮きたがる。荷重は谷側の車輪に掛かる。4WD構想もあったし、浮いて滑りたがる山側をデファレンシャル機構にてスリップさせなくするとか様々な意見が出て対応が急がれた。
しかし、自重UPとなにより製品単価の上昇は抑えたい状況だったのです。
そのような状況の中、競合他社から乗用型摘採機が販売されました。
それまでは鹿児島県内のメーカーのみ販売していましたが、県内のメーカーがレールの諸問題を解決した乗用タイプの機械を開発されたのです。
価格的には単体では高価でしたが、レール式は規模を拡大するに当たりその都度レールの購入・敷設が必要となります。当時70aで比較すると、乗用型導入が金額的には優位になる。
乗用型は複数の生産者様での共用(シェア)が可能となることもメリットでした。
ここから流れは一気に乗用型摘採機に向かうこととなります。補助事業も対象が乗用型になっていく。
県内のもう1社も乗用型摘採機の販売を開始する。ちなみにそのメーカーは2024年現在、茶園管理製品は乗用型しか販売していないです。
このような流れの中で弊社のみならずレール式茶摘採機は過去のモノになっていくのです。
茶園レールは成功したのか、それとも失敗か。2択ならば失敗と言わざるを得ない。
しかし、弊社の農業部門においてこの「レール」はその後も拡販していくのです。近年ではトマトの高所作業台車。
販売はタイヤ式でのスタートでしたが、ハイワイヤー方式で高い位置で移動しながら作業するのには不安定な空気タイヤよりも軌道が安定するレール式の需要が増加した。
トマト | 製品情報 | 農園芸製品で省力化-矢崎化工Agri-Connector (agricone.com)
補助事業もレール式のみを対象とする物件が主流となっています。
トマト圃場でのレールは収穫物の搬送にも用いられます。
接地面での抵抗が小さいため、空気タイヤ式の搬送台車よりも高荷重で使用できるのです。
また、ポリエチレン被覆パイプは「いちご日記」でも紹介したJA様のいちご集出荷場等でローラーパイプとして販売もしていました。
コンベヤシステム | 農園芸製品で省力化-矢崎化工Agri-Connector (agricone.com)
出荷用の箱(個撰)は段ボール製が多いが滑りやすくローラーコンベヤの駆動が掛かりにくい場合もあります。そこでローレット加工したローラーを使用して問題を解決しました。茶園レールでの開発が生きた事例です。
水稲用レールもしかり。北海道では水稲育苗用に茶園レールの販売以前から現在まで多くのレールを販売しています。
屋外での使用だから高耐候性のポリエチレン被覆が長持ちの要因です。
水稲 | 製品情報 | 農園芸製品で省力化-矢崎化工Agri-Connector (agricone.com)
農業の現場では通路がコンクリート等で整地されていない場合が圧倒的に多い。ぬかるんだ場所も多く、その現場では過去も現在もレール式運搬台車は多いに活躍しているのです。
そして新しい運搬用の製品や資材が販売されてもレールの需要がなくなることはなさそうです。
そうレールに載る台車はイレクターで様々な形が提案できる。台車はオーダーメイドで唯一の現場でもその条件に沿う形が作れるから。
イレクターってそうゆうモノなんだ。
この文章を当初「いちご日記」でのおまけにしようと考えていたのですが、ボリュームが大きくなったため
単発のコラムとして掲載致しました。
「お茶」の話を書くと言ったはいいが実はレール式茶摘採機の資料がほとんど残っていませんでした。
実は私も私が現在在籍している部署にもなかった画像をこのコラムを編集・掲載してくれる部門が持って
いてくれたのです。30年も前の廃番になった製品の画像を。
今回のコラムで一番掲載したかった写真、それはレール式茶摘採機の手動式と片面自走式の単体の画像。
2つの画像が無かったならば、成立しなかった文章でしょう。
「仕事はチームで行う。」という基本を今回は私も改めて感じました。
皆様もそんな場面に出会うことがあるでしょう。それが、「組織」なのでしょう。
営業職の時代はノルマ達成に四苦八苦していました。年度をプラスで終了しても次年度はすぐに始まりのノルマは待ってくれない。
そんな時に励みになる事と言えば、購入してくださったお客様が製品に満足して笑顔になってくれること。
困難な作業が提案した製品で重労働ではなくなること。イレクターはアイデアを形にする商品です。
弊社はこれからも様々な場面で作業改善に取り組んでまいります。
いかがでしたか、お茶の話。
農業資材だけではなく様々な場面で機械や資材が進化していきます。一番分かりやすいのは電話とかパソコンとかでしょうかね。
黒電話でダイヤル式、それがプッシュフォンになり、コードレスへ。家庭用FAX付きに変化した固定電話。それが携帯電話が登場して現在はスマホに。
パソコンは私が就職してから登場です。大学の卒業論文はガリ版で青刷りだったなあ。若い人達は「なんの話。」って感じでしょうね。
機械にも歴史がある。会社にも歴史がある。今回は成功しなかった例として取り上げた部分もあります。けど、その後の製品にきちんと生きている。無駄な開発ではなかったと思っています。
「いちご日記」の中で気になったことがあればこんな風にコラムにできたら良いと考えています。
新緑の期間はさほど長くなく梅雨になり夏が来ます。今年の夏も暑そうだ。
ではまた、皆様お元気で。今度は「いちご日記」でお会い致しましょう。バイバイ。