いちご日記

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  • 2020年03月12日

いちご「紅かおり」

にんじんでもぶどうでもない。いちごです。

新型コロナウイルスの感染がこれ以上広がらないことを願う今日この頃です。
皆様、お元気でお過ごしでしょうか。
春の足音も聞こえてくる時期になりました。卒業シーズンの到来です(卒業式も自粛ムードですが)。
そして、この日記ももうすぐ卒業を迎えます。


今回は昨年10月以来の訪問となります、静岡市のK様の圃場の状況をお伝えします。
時期は2月の初旬です。暖冬の今シーズンですが、冬らしい日が続いた頃です。

通いなれた道を走っていくとK様のハウスが見えてきます。入口には奥様の姿が見えます。
「お父さん、○○さん来たよー。」
ハウスに入ります。手入れの最中だったのでしょう。足元には掻いた葉が見えます。
お仕事中、申し訳ありません。お言葉に甘えてまた来ました。よろしくお願いします。
K様電話中。相手はいちごの大先生みたい。通話が終わったところで再度ハウスに入ります。

新品種「紅かおり」

「紅かおり」です。

K様が交配させた新品種です。プロの生産者様の中には、噂には聞いている方もいらっしゃるでしょうね。
このいちごはもうすぐ品種登録される予定です。
実際に栽培されている写真は本邦初公開かもしれません。
インターネット上で昨年量販店で購入された方が「紅かおり」の果実の写真をアップしていたことは確認済です。「デビュー前のアイドルに会ったみたい。」とありました。なかなか素敵な表現じゃないですか。
現在はK様と近隣7名の生産者様だけが栽培しています。

「紅かおり」は「紅ほっぺ」と「かおり野」を掛け合わせた品種です。
「紅ほっぺ」については今までこの日記にも登場していますので説明は割愛させていただきます。
少し「かおり野」について説明しましょう。

「かおり野」について

「かおり野」は三重県農業研究所が1990年(平成2年)から交配を始め、約20年かけて開発したいちごで、2008年(平成20年)に品種登録の出願が出され、2010年(平成22年)5月に登録されました。


「かおり野」は炭疽病抵抗性を持ち、普通促成栽培で11月中旬から収穫が可能な極早生品種である。生育が旺盛で収量が多い上、果実が大きく、高糖度かつ低酸度の良食味を持つ。
「女峰」、「愛ベリー」、「とよのか」、「宝交早生」、「章姫」、「あかしゃのみつこ」、「とちおとめ」および「サンチーゴ」の8品種を基に、炭疽病抵抗性選抜と系統間交配を繰り返して育成した系統同士を2003年に交配して得られた実生集団から選抜された促成栽培用品種である。
(三重県農業研究所 発表文献より一部抜粋)


私自身も「かおり野」発祥の三重県農業研究所様には2011年4月から2019年3月の間に延べ100回以上は訪問させていただいており、「かおり野」もなじみの深い品種です。三重農研様への最終訪問日は静岡へ転勤する直前、2019年3月17日、約1年前です。
説明にもあるように炭疽病に強いという評判で、見学者も多く訪れていたことをよく知っています。
私もその事実を聞いて衝撃を受けたことを覚えています。

三重県以外でも生産者部会での出荷実績もある品種です。
葉が大きくなること、すなわち樹も大きくなる特長を持っています。春先の管理はなかなか難しくなります。
「章姫」の血を受け継いでいるためか、果肉の外側はオレンジ掛かった赤。内側は白色です。

「紅かおり」の外観

話を「紅かおり」に戻しましょう。
果皮は少しオレンジ掛かっています。「かおり野」の特性が表れている感じがします。その色は「かおり野」の親、「章姫」から受け継いでいるのでしょう。ただ「章姫」よりは赤味が強いかな。
種の部分が果皮に沈まないので種部分が黒い影にはならない。
果実そのものは静岡品種特有の平べったい感じではなく、丸いと表現した方がいいみたいです。

果実をたばこのパッケージと比較してみました。
写真の大きさの果実が鈴なりです。
暖房が入っていてカメラのレンズが曇ってしまいました。ご容赦ください。

2番果です。摘果してあることが分かるでしょうか。
摘果してもこの果実の数、花も多く咲く品種と思われます。また果茎も長く太いようです。
ちなみにK様の高設栽培圃場のプランターはGFT-17です。設置板・固定板も使用していただいております。ありがとうございます。

「紅かおり」の葉や果肉

葉を比べてみましょう。
「章姫」、「紅ほっぺ」より大きいです。「かおり野」の特徴が大きく反映されています。

次は果肉の比較をしてみましょう。
対象は「紅ほっぺ」です。K様は「紅ほっぺ」も栽培されています。

左「紅かおり」、右「紅ほっぺ」。
なんと果肉は「紅ほっぺ」よりも赤い。

「紅かおり」の食味

では食べてみましょう。
食感はしっかりしています。表現として適切でないかもしれませんが「章姫」よりも硬いです。
また、果汁がジュワっと溢れる感じ。比較した「紅ほっぺ」がサクサクしていると感じる程です。
一番大事な食味について。
「章姫」、「紅ほっぺ」とは明らかに違います。よって「きらぴ香」とも違う。「かおり野」に近いと感じますが、それよりももっとフルーティーな感じ。桃の食味を足したような、静岡ではあまり食べたことのないいちごの味です。
私は素直に「おいしい」と感じました。酸味の強い味を好まれる方は少しもの足りないかなと思うかも。果汁が多いのに糖度は高いのだろうと想像します。
市場にいっぱい出て、皆様にも食べて欲しいと思う味です。

少し横道に逸れて、いちごの味について。
私などは子供の頃は砂糖をかけていちごを食べていた記憶があります。そのままでは酸っぱすぎたのでしょう。
NHKの「みんなのうた」で放送された「山口さんちのツトム君」という歌があります。1976年に初めて放送されました。その歌詞の終盤に「つんだばかりのいちご チョッピリすっぱいね。」とあります。
昭和の時代、いちごは酸っぱい食べ物だったのです。
以前にもこの日記の中で書きましたが「女峰」の登場からいちごはそのまま食べるようになりましたが、それでも酸味は残っていたのです。
令和の時代は「紅かおり」のような味が、いちごの食味のスタンダードになるのかもしれません。

「紅かおり」の特徴

8月7日に掲載しました「いちご日記」いちごのプロ【その3】の取材時にK様から聞いていましたが、この品種は病気に強いようだとのことです。
「紅ほっぺ」に病気が出た時期に、すぐ隣に植えてあった「紅かおり」には病気が出なかったと聞きました。「かおり野」の特性が遺伝していると考えられます。


今回の訪問でK様から新たに伺ったことで驚いたことがあります。
K様の出荷先が調査した結果、平パックでの出荷率が「紅ほっぺ」60%弱、「紅かおり」90%強とのこと。これは驚きの数字です。
平パックに詰める場合、「紅かおり」は規定の重量に5-6個の果実で達するようです。
大きさについてK様はまず2L以上になるとおっしゃいました。もちろん、摘果の加減によってはそれ以上にもなるだろうし、無摘果ならばLサイズ程度も収穫対象でしょう。
苗1株あたりのパック数はどの程度になるのか。それは「紅ほっぺ」よりも大きい数字になるだろうことが容易に推測できます。


親株からのランナー発生数量については「章姫」と同等の模様。30倍程度は見込めるということでしょう。
また、ランナーが長いことも特徴です。
ランナーの発生が旺盛ならば、生産者様は親株の数を計算しやすいし、苗の確保も容易になります。

「一番(体感で)違うことは香りの強さだよ。」とK様はおっしゃいます。ハウスに入ったとたん、いちごの強い香りがするのだと言います。それは「紅ほっぺ」の圃場に入った時との比較になります。
生産者様が感じるということは相当強い香りなのでしょう。私などはいちごのハウスはいちごの香りに包まれていると思うのですが、生産者様が改めておっしゃるということはそれだけ香りが強いと言うことです。


紅かおりは「4-5月になると果実は固くなるし、樹の背丈はびっくりするほどは大きくならない。」と言われます。
「かおり野」は背丈が40cmを超えてしまうこともそんなに珍しいことではないです。K様が栽培管理を工夫されていることもあるのでしょうが、そこは今後の生育状況を確認していきたいです。
「果実の一つ一つが重たい感じがする。ほっぺよりも実が厚いから実際、重たいのだろう。」とK様。
二次元で見れば確かに大きさは同じくらい。でもヘタから見ると確かに厚いです。やはり丸みがあります。

「次作には作る人数はもっと増えるだろうよ。」とK様はおっしゃいました。私も増えると思います。
K様、この品種でお金儲けを考えているのではないと言います。多くのいちご生産者様が作りやすい、そしておいしい品種になればいいとおっしゃる。素晴らしすぎる。
多くの人に「紅かおり」を知ってもらえたらいいということで私にも声をかけてくださいました。
この日記が少しでもお役に立てることができるように私も期待して書いております。

今回訪問して驚くことが多くて圃場全体の写真も撮り損ねてしまいました。お話の内容の衝撃が大きすぎました。カメラのレンズが曇っていることにも気付きませんでした。
私なんかが聞いてよかったのだろうか、とも思いました。

K様、奥様、お忙しい中で作業を中断させてしまいました。申し訳ありません。本当にありがとうございます。こんな貴重なお話を伺ったことに恐縮してしまいます。
忘れたころにやってくる私をいつも暖かく迎えてくださり、色々なお話をされます。ありがたいことです。

生産者様を訪問した時の嬉しいことの一つに「矢崎さんが来たよ。」ではなく「矢崎の○○さんが来たよ。」と名前を憶えていただいていることがあります。
本当にただの業者で役に立つ話題を持ってくるでもないのに名前で呼んでいただけることは幸せなことです。
この日記の連載もあと数回で終了となります。少し足が遠のくかもしれませんが今後もよろしくお願いいたします。

次回予告

まだ、次回がありますよ。
ずっと見たいと言っていたパック詰め作業。次回にてお伝えする予定です。
次回をもって、春からの一連の作業を全てご紹介したこととなります。
最終回まであと数回、全力で書いてお伝えしていきます。
次回もお楽しみに!それでは皆様、お健やかに。